誘拐じゃない?
「レオン!どうしてここにいるんですか!?」
振り返ると後ろには夜会服を着たレオンが立っていた。けれどいつも一緒にいるリヴィエール兄弟の姿はない。クラトン祭りを見に来たわけじゃないのかな。
「セドリック。お前、いい度胸だな」
「お褒めに預かり光栄です」
しかもなんかバチバチしてるし。段々周囲の人がこっちに注意を向け始めている。何かの拍子に誰かが口を滑らせて私たちが偽装婚約だとバレるのもマズい。何とかしてこの状況を止めないと。
「レオンってば……来られないと聞いていたのに来てくださったんですね。嬉しいです!ランタンが上がるまであちらの個室でお話しませんか?」
わざとらしいくらいニコニコとして彼の腕を引っ張る。仮にも婚約しているし、2人きりでもいいだろうと思っていたが、セドリックの顔を見ると間違いなく後からめんどくさいことになると予想できたので、エリカやレヴィ、リビウスと共にみんなでラウンジの隣にある個室の休憩室へと向かった。
「貴方、やっぱり役者になったら?」
「私なんか無理に決まってるじゃないですかー」
「いや、俺もそう思った。アドリブ対応も完璧だったしな」
レヴィとリビウスの演技への厳しさは総合文化祭の時に痛いほど知った。そんな彼らに褒めてもらえると言うのは顔には出さないがかなり嬉しかったりする。
「それで?レオン皇子はどうしてこちらに?出席者名簿にも貴方の名前はありませんでしたが」
「そう言えばあの双子は?いつも一緒にいますよね?」
セドリックとエリカの質問に、レオンはまぁ隠すことでもないしなと言ってここへの要件を話しに来た。
「パーティーですか?」
「あぁ、クリスタル帝国で開かれる」
まぁ契約時にも婚約者として必要な場面では出ると言っていたし、断る理由もない。
「わかりました。いつですか?」
「明日だ」
「はい?」
「明日」
明日って、明日?え、流石に急すぎない?
「え、それは流石に……」
「俺たちも今大忙しなんだよ。ほら行くぞ」
そう言って腕を引かれる。え、待って待って。行くって今から?
まだランタン見てないんだけど。え。ほんとに行くの?
後ろからみんなが何か言っていたが何を言っていたかまではわからなかった。
私は気が付いたら皇室の馬車に乗せられていた。
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「これってもはや誘拐では?」
「やっとティアラがつけられて良かったじゃないか」
あ、無視なんですね。
まぁ確かにティアラを着けるために婚約したようなものなのに、あれから1度もつけていなかった。
いやでも流石に急すぎるわ。
「なんか、どっと疲れた」
「おーおーくたびれてるな」
「陛下に初めて挨拶したんだろ?そりゃ疲れもする」
休憩室のソファーで死んでいる私に声を掛けてきたのはヨハンとノエルだった。レオンはもう少し準備があるらしい。しかし、パーティーが始まる前にまさか両陛下に挨拶させられるとは思わなかった。婚約者なのだから今まで挨拶していない方がおかしいと言えばおかしいのだが、流石にこのタイミングでぶっこんで来るとは思わなかった。
幸いだったのは両陛下がとてもやさしかったことくらい。あれで滅茶苦茶厳しい人とかだったらもう私は諸々のストレスで泣き叫んでいた。冬休みに入るまでの束の間の休息を思い出す。あぁ、あの平和な日々に戻りたい。
「いつまで休憩室にいるつもりだ?そろそろ行くぞ」
ドアを開けて呆れたように入ってきたのはレオンだった。流石は皇子。慣れているのか一切の疲れを感じない。私とお揃いのように仕立ててある服は、青を基調とした星モチーフのザ・王子服だが、異常なレベルで似合ってしまっているのが悔しい。
「そう言えば、今日って何のパーティー何です?」
私がそう言うと、彼は「あぁ言ってなかったか」と思い出したように言った。
「お前の国の第2王子の歓迎パーティーだよ」




