花火
「美味しい!」
「ふふっ、口に合ってよかったよ」
豪華なコース料理が並ぶダイニングは昼間のおしゃれな様子とは異なり、格式高いディナーといった様子だった。テーブルセッティングや装飾の仕方、テーブルや椅子を変えるだけでこれだけ印象が変わるんだ。私はレベルの高い公爵家の使用人たちの技術に感心しながら、マナーに気を付けて料理を楽しむ。
デザートが済むと、少しの歓談を楽しんだ後、セドリックがみんなを庭へと案内した。
公爵家の領地は比較的温暖とはいえ、夜になると流石に寒い。
私はコートを握りしめ夜空に浮かぶ満天の星を眺めた。冬で空気が澄んでいるため、いつもよりもきれいに見えるのだそう。
「でも流石に寒いな。早く屋敷戻ろうぜ」
そうだね。
アルバートに頷いてみんなが戻ろうとしたとき、セドリックが待って、とみんなを引き留めた。
ヒュー……バン!
大きな音に驚いて、空を見上げると、そこには大きな花火がいくつも打ちあがっていた。
「凄い……」
私自身、花火は好きだが人が多いのが苦手でいつもマンションの窓から眺めたり、SNSで上がっている動画を一人で見るくらいだったから、こんなに間近で見たのは初めてだ。
空が済んでいる分、夏に見るよりももっと綺麗に見える。
「冬に花火は出来ないはずでは?僕もエマさんから話を聞いて手持ち花火を販売しようと思っていましたが、冬は乾燥していて火災のリスクが高いため許可は下りませんでしたよ」
売ろうとしてたんだ……流石エドガーというか何と言うか。
私が以前花火っていいよねと話したことを覚えていてくれたのだろうか。
「この花火は火薬を使っていないんです。だから火災のリスクはありません」
「なるほど。では何を使っているんです?」
エドガーはメモを取り出しビジネスモードに入った。
アルバートとエリカは間近で見る花火に興奮してマジグラのストーリーズを更新していた。
「魔力ですよ」
「魔力?」
「火薬の代わりに僕が魔法をかけました。1番高いところまで打ちあがったら光が飛び散るように」
あ、それって。
私が魔法競技大会のためにエイドと研究した時に出来た失敗作だよね。
魔法式をエイドに教わったのだろうか。
「エマ達が作った魔法だよ」
「うん。……でもあれってすごく魔法消費が激しいよね?」
何とか試合で使えないかと試行錯誤したが、展開までの時間、かかる魔力量、コントロールの難しさから当日使うのは断念した記憶がある。
「ある程度作り置きしておけばそんなに難しいことでもないよ」
確かに私は試合中の短い時間を理由に断念したこともあるが、それでも発動条件を正確に設定し、これだけの量を作り上げるなんて相当な能力が無いと出来ない。私は改めて彼のすごさを実感する。
「商用利用は難しそうですね」
エドガーは残念そうにメモをしまう。
私はそんな彼に苦笑いしながら再び空を見上げた。




