剣術訓練
「みんなすごかったねー」
大変満足な私とは対照的に、4人は疲れ果てていた。
それもそのはず。昼過ぎから夕方までぶっ通しで訓練してたから。
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「「おはようございます!」」
「あぁ」
稽古場に入った途端、騎士たちがビシッとこちらを向いて大きな声で挨拶してきた。
やはり貴族である4人は慣れているのか特に驚いた様子もなかったが、私は大の大人にこれだけの声量で挨拶されるとどうしてもたじろいでしまう。
いや、大人じゃなくてもそうか。学生時代、野球部が表彰されて帰り際挨拶するとき必ずビクッてなってたし。
「もう終わりか?」
稽古が始まって1時間ほど。準備運動をした後、折角だからとセドリックが騎士たち全員と手合わせをしたところ、体格差なんて感じさせず圧勝してしまった。
地面に転がる巨体を一瞥し、汗一つ掻かず剣片手に風に吹かれているセドリックは、もはや絵画のような美しさだった。なんでここのスチル無かったんだろう。
これには一緒に見学していた3人も驚き、拍手と共に賛辞を送っていた。
いやいや流石にすごすぎる。ちょっと設定盛り過ぎなんじゃない?
そう思ってみていると、見学席にいた3人が立ち上がり、何やら準備体操を始めた。
「君たちもやるの?」
「あんなもん見せられたらやりたくなるに決まってるだろ」
そこからは3人が順番に。
とはいえさっきの騎士たちのようにはすぐに決着がつかないので、勝ち負けは気にせず時間を区切って手合わせをする。
1周すると、そこからは対セドリックだけではなく、エドガー対アルバート、アルバート対エリカなど様々な組み合わせで手合わせをした。
顔面偏差値天井突破の4人が汗を流して剣をふるう。そこはもはや一種のエンターテインメントと化しており、騎士たちだけでなく、どこから嗅ぎ付けたのか、屋敷の中にいた召使いやシェフなんかも見に来て大盛り上がりだった。
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そんなこんなで気が付けば夕食の時間。
流石にこのままではマズいからと、みんな部屋に戻ってシャワーを浴びてからダイニングに集合することになった。
私は手合わせこそしていないが、汗はしっかりかいたのでシャワーを浴びて予備の服に着替える。
「エリカすごかったなぁ」
女性だというハンデをものともせず彼らと対等に手合わせをする様子は、私にとってはとても眩しいものだった。私の筋力では剣を持つことすらままならないだろう。
「確かにエリカ様も素敵でしたけど、セドリック坊ちゃまも負けてはいませんよ」
エマ様に見せたいと、学校から戻って数日間、ずっと剣術の訓練をなさっていたのです。
着替えを手伝ってくれていた召使いが微笑ましそうに言った。
「え?そうなんですか?」
気持ちは嬉しいけど、これは……
セドリックだけではない。他の攻略対象たちも、日に日に距離が近くなっている気がする。
一気に誰か1人だけ進展しないところを見ると、アメリアの策はあながち間違っていなかったのかも。
とはいえ手遅れになる前に何とかしないと。
「すべては私の悠々自適な生活を守るため」
「……何かおっしゃいました?」
「いえ。何でもありませんよ」
召使いたちに髪を整えてもらい、派手になり過ぎないよう軽くメイクを施す。
「とてもお綺麗です」と褒めてもらうと、社交辞令だとは分かっていてもやはり嬉しい。
「いってらっしゃいませ」
「行って来ます」
私は少しだけ背筋を伸ばしてみんなの待つダイニングルームへと向かった。




