バートン公爵家
「足元気を付けてね」
「ありがとう」
セドリックの完璧なエスコートで馬車に乗り込む。
「エリカたちも来られて良かったね」
「そうだね……」
明日から始まるクラトン祭りを見に来るなら、セドリックの屋敷に泊まっていかないかと誘われこのお泊り会が実現した。その時近くにいたエリカやアルバート、エドガーを始めとしたメンバーと一緒に。
彼らは自分の馬車でセドリックの屋敷まで向かうそうで、馬車を持っていない私だけセドリックに迎えに来てもらったのだ。
お泊り会などこの世界に来てからは初めてなので、私は思っている以上に浮かれていた。
「ねぇ、エマ」
「セドリック、なんか近くない?」
そうかな?ととぼける彼から距離をとる。馬車の中はこんなに広いのに、どうしてこんなに距離を詰めて来るんだろう。寒い?と聞くと、彼は何かをボソッと言った後、そうなんだと笑った。
なんか別の理由がありそうだけど、面倒だから突っ込むのは止めておこう。
大きな門をくぐると、長い庭のような道を通って馬車は静止した。おそらくこのとてつもなく大きな建物がセドリックの屋敷なのだろう。流石公爵家と言うべきか、お城並みの大きさと豪華さを兼ね備えている。
私は彼の手を取って馬車から降りた。
「「お帰りなさいませ。セドリックお坊ちゃま」」
使用人たちが列をなして頭を下げる。
私はドラマでしか見たことのない光景に圧倒されながら、セドリックにエスコートされて屋敷の中へと足を踏み入れた。
エントランスには大きなシャンデリアが輝き、床に敷かれたカーペットも一歩踏み出しただけで上質なものだとわかった。
馬車を見てもある程度予想はしてたけど……流石公爵家って感じ。
ついこの間行ったクリスタル帝国のお城にも全然負けてない。
「セドリック。戻ったのか」
エントランスの階段から私たちを見下ろしている男性。
セドリックは公爵家の一人息子だったはず。となると、彼を呼び捨てにしている人物など一人しかいない。
「父上、ただいま戻りました」
やっぱり。でもお父さんにしては若すぎない?
セドリックと同じ白い髪に赤いルビーのような瞳。こんな年の息子がいるとは思えないくらい若いし、肌綺麗だし、スタイルもいい。セドリックとは違い眼鏡をかけているが、それすら大人の色気を感じてしまう。
セドリックがイケメンなのは生まれる前から決まっていたらしい。きっとお母さんもとんでもなく美人なんだろうな。
「君がレオン皇子の婚約者だね」
「お初にお目にかかります。わたくし、エマ・シャーロットと申します。この度はお招きくださりありがとうございます」
練習通りに挨拶をする。
すると、彼は階段から降りてきて、私と同じように丁寧に自己紹介をしてくれた。
「噂通りの可愛らしい方だ。セドリックからも大変優秀だと聞いている。きっとレオン皇子の良き伴侶となられるだろう」
「父上。事情があり婚約はしましたが、エマがレオン皇子と結婚するとは決まっていません」
不機嫌を露わにするセドリックに彼は笑っていた。
一通り挨拶を済ませると、昼食まではまだ時間があるからと、セドリックは屋敷の中を案内してくれた。
「凄い!屋敷の中にこんなに広い庭園があるの?」
セドリックは私が植物や薬草に興味があることを知っているので、バートン家自慢だと言う大きな庭園を最初に案内してくれた。そこには冬だと言うのにたくさんの植物が咲いており、学校にはない希少な薬草なども植えてあった。
「母上は昔から植物が好きなんだ。それを知っている父上が母上のために作ったんだよ」
「素敵なお父さんだね」
なるほどお父さんは超イケメンなだけじゃなくて愛妻家のスパダリだったと言う事か。
セドリックは見た目がお父さんそっくりだし、普段の優しい様子を見ていても、きっとお父さんと同じくらいのスパダリになることだろう。奥さんになる人はさぞ幸せだろうな。
「エマ。これを君に」
そう言って渡されたのはとても美しいブーケだった。
「えっと……ありがとう」
「エマ。いつか君にはここより大きな庭園をプレゼントす……」
「エマー!!」
途中まで発せられたセドリックの言葉は、遠くから聞こえる大きな声によってかき消された。




