私が選手……?
フラッグサバイバル。
男女混合5人のチームで、他のチームの旗を取り合う競技。参加者は魔法感知スーツを着用し、魔法の銃を持つ。他のプレイヤーから光弾が当たると脱落。全員脱落するか旗を取られるとそのチームは失格。最後まで残ったチームの勝利。
そんな競技に私が?選考会にも出ていないのに?
第一、既に代表者に選ばれた人はどうなるの?
「団体競技であるトレジャーハントとフラッグサバイバルは選考会を行わず、生徒会がメンバーを決定することになっています。同じ選手が団体戦の2種目両方に出ることはできませんが、個人戦に選ばれている選手も出場することが出来ます。そのため通常は個人戦の出場選手の中から選手を選ぶのですが、今年の女子は男子に比べて実力が芳しくありません。断言します。君が選考会に出ていれば、出場選手入りは間違いなかった。そんな優秀な生徒を出場させないのは学校としても痛手です。生徒会はフラッグサバイバルの出場選手に君、エマ・シャーロットを指名します」
なるほど。そう言われれば団体戦の選考会は無かった。出る気も無かったから気にしてなかったけど。そう言う制度で選ばれてるんだ。でも……
「お断りします」
もちろん私が引き受けるだろうと思っていたエドガーは驚いた様子で目を見開いた。
団体戦。しかも男女混合チームとなると、私をよく思わない人は必ずいる。今の口ぶりからしてセドリックのような攻略対象たちも選ばれているんだろう。出会わなくて済むなら出会いたくないし、何より私は攻略対象と接触して痛い目を見たばかりだ。同じチームにこの間の犯人がいないとも限らないし。
「それは困ります。僕が忙しい中、君の練習に付き合ったのも階段で倒れている君を助けたのも全ては僕の善意です。僕が困っているのに貴方は助けて下さらないんですか?恩を仇で返すと」
あぁ、この間の嫌な予感はこれか。そうだよね。あのエドガーが何の利益もなく人助けをするはずがない。魔法の相談に乗ってくれたのも、私が学校にとって有用な選手になると思ったからだろう。でも他の種目ならともかく団体戦となると……私だって死にたくはないしなぁ。
「もし貴方がフラッグサバイバルに出場して優勝したら。僕は貴方を生徒会役員に任命しようと考えています。ご存知でしょうがウィンチェスターアカデミーの生徒会役員というだけで、将来の進路選択においてかなり有利になります。特に貴方のような立場の方には願ってもない話でしょう?……このバッチをつけているだけで、学校での扱いも大きく変わります」
どうです?と生徒会役員のバッチをちらつかせるエドガーの瞳は、先日の件を見透かしているように見えた。まぁ生徒会役員なんて確かに願ってもない話だけど。私の立場の話を持ち出してきたということは、それなりに私の状況を知っているのだろう。チームメンバーと考慮してくれているといいんだけど。
「わかりました。お引き受けします」
魔法省に就職するなら遅かれ早かれ目立たなくてはいけないのだから、この際もう思い切ってしまおう。「練習は来週からです」という言葉と共に、ルールブックと練習日程や場所が書かれた紙を手渡された。魔法競技大会まで残りおよそ1ヶ月。夏休みの前半を利用して行われる。
やってやろうじゃん。
私は寮ではなく、図書室へと足を向けた。
埃をかぶった分厚い魔法書を取り出す。フラッグサバイバルは銃から出す光弾が魔力感知スーツに当たると脱落。相手に直接被害を加える攻撃は禁止されているが、それ以外は何をしても良い。銃からは光弾しか出せないので多くの選手が魔法の杖を携帯し魔法を使って妨害してくることが予想される。
ルールブックによると、フラッグサバイバルには主に3つの役割がある。銃で相手を脱落させることを目的とするアタッカー。自分の陣地の旗を守るガード。そして相手の旗を取りに行くフラッガー。ルールで定められているわけではないのでこの限りではないが、基本的にはこの3つの役割で構成されるという。
エドガーが私を選手に指名したのは完全制御魔法のせいだろう。箒に乗ったうえで両手が空く私は魔法の杖と銃を両方手に持つことが出来る。確かにアタッカーとしては喉から手が出るほど欲しい人材に見えるだろうな。
さてどうしよう。フラッグサバイバルに出るくらいの選手だ。多分簡単には当てさせてくれない。何かいい魔法があるといいんだけど……
そう言えば錬金術のレポート課題が出てたんだった!ヤバい、それもやらなきゃ。
明日から練習始まるし、今日は久しぶりにグラウンドで実際に飛ぶ練習でもしようかな。
ここ数日。私は図書室に籠って、ひたすら魔法を調べ続けた。使えそうな魔法の呪文は記憶して実際に使ってみたりもした。魔法の杖には記憶機能があって、よく使う魔法ほど少ない魔力でスムーズに発動できるようになるから、使用する可能性のある魔法は積極的に試すようにしていたのだ。
「貴方がエマ・シャーロット?」
「はい。そうですが……」
品定めするような視線。その視線には確実に敵意が込められている。
取り巻きも含めて5人。その中には私に日常的に嫌がらせをしてくる人もいる。
全員わかりやすく魔法の杖を持っている。威嚇のためだと思いたいけど。
ここはほとんど人が通らない廊下。助けを呼ぶのは無理だろう。通りかかったところで助けてくれる気はしないけど。
「フラッグサバイバルの選手に選ばれたそうね」
まぁ選手は発表されているし、知っているのは当然だろう。
「どうせエドガー様に媚び売ったんでしょう?生徒会室に出入りしていたみたいだし」
「はぁ……」
「目障りなのよ!貴方さえいなければ、私が出場してたはずなのに!」
その瞬間魔法の杖が一斉にこちらを向く。なるほどね。つまりは私にケガさせて大会に出られないようにしてしまおうと。
「実力は私の方が上なのに!」
風魔法。かまいたちみたいな感じかな。詠唱を聞くに、後ろの人たちは神経魔法に電撃魔法などなど。コレまともに食らったら私死ぬんじゃない?
でも、私が何の警戒も対策もしてないと思った?
最初は反射魔法で跳ね返してやろうと思ってたけど、私は傷つけられるのはもちろん、傷つけても負けだ。傷害事件だ何だと言われて退学にされることも考えられる。
だから私は考えた。そして気づいた。全部なかったことにしてしまえばいいと。
「レセプテイト」
その瞬間、私に向けられていた魔法が跡形もなく消え去る。
「どうして……!」
彼女らは再び魔法を放つがそれらは全て、私に当たる前に消え去る。
馬鹿だな。どうせ当たらないのに。
「すみません。練習しないといけないので失礼します」




