大会スタート
「結構魔法書以外の蔵書もあるんだ」
今まで図書室には勉強以外でほとんど来たことが無かったため知らなかったが、ウィンチェスターアカデミーの図書館には魔法書や歴史書以外にも、雑誌や小説、神話などと言ったものも数多く置かれている。
レシピ本や刺繍、流行のドレスに関する本は需要があるのか小さなコーナーまで作られていた。私はそこから流行のスイーツに関する本を何冊か手に取りパラパラとめくる。そこにはケーキやタルト、クッキーと言った種類のスイーツが特集されており、これらは私にもなじみ深いスイーツではあるものの、やはりこのゲームはヨーロッパを舞台としているためなのかデコレーションが独特だった。カップケーキには必ず色々な色のクリームが乗っているし、ケーキにはフルーツがほとんど入っておらず、何重にも重ねられた色とりどりのクリームでデコレーションされている。
私が提案したスイーツが斬新だとウィーブルが話題になったのもこれを見ればよくわかる。なんだか見ているだけで胸焼けしそう。
元の世界のスイーツはこちらでも評判がいいので無理にこちらに合わせる必要もないが、コンテストで勝とうと思うと味だけではなく何かインパクトが欲しい。
「テーマも良く分からないしなぁ……」
「何それ今度の大会のやつ?」
背後から覗きこまれているような気がして振り返ると、そこにはアルバートが立っていた。口には出さないけど、正直ちょっと怖かった。
アルバートに事情を説明してアドバイスを求めると、彼は困った様子で首を傾げた。
「夜空って言ったら、星か月かくらいじゃないか?青系のスイーツなら何でもいいような気もするけど」
エマちゃんは何を作るつもり?
なんでも乗せられて作りやすいパフェにしようと思っていたが、青系となるとゼリーとかだろうか。そもそも青いスイーツなど作ったことがないのでどうしていいか分からない。着色料で青くするだけでは味気ないし。
「月か星ってどうやって表現する?スイーツの形を星形にするとか?」
でもそれじゃインパクトに欠ける。
そもそもテーマに対して安直すぎるよね。
「魔法で作ればいいじゃん」
「え?」
「そのままの意味」
あぁなるほど。確かにそうかも。
それから私は準備を進め、いよいよスイーツ大会本番となった。
会場にはたくさんの参加者と観客。中には相当気合の入っている部活もあって、垂れ幕のようなものを作っている部活まであった。
「ではこれよりスイーツ大会を始めます。司会は生徒会副会長セドリック・バートンでお送りします。よろしくお願いします」
キャー、と一部の女子から歓声が上がる。相変わらずセドリックは大人気らしい。当の本人はめんどくさそうにしているけれど。
「では初めに審査員の紹介です」
審査員長を務めるのは学食の一流パティシエ。その他の審査員は教員や学内のシェフで構成されており、総合文化祭の時に比べるとやはり規模は小さく、私としては幾分か気が楽だった。
一通り説明が終わると、早速競技の説明に入る。
制限時間は3時間。作るスイーツは夜空というテーマに沿っていれば自由で、制限時間が終わった後、1人1人にスイーツの説明をする時間が与えられる。味、完成度、独創性の3点でそれぞれが評価を付け、1番点数の高かった者が優勝となる。
「それでは始めます。よーい、スタート!」
セドリックの合図と共に、調理台へ向かい魔法で材料を転送する。ちなみに食材は予算以内なら加工食品を除き何を使っても自由である。加工食品と言うのは主にジャムやフルーツソースのことを指していて、使いたい場合は原材料から自分で作らなければならない。
調理台は1つにつき2人が共用で使うことになっている。私はまさかのイレナ・エリーチカと共用であった。
「優勝するのは私よ」
「私も負けるつもりはありません」
優勝候補のスイーツ研究会の部長と魔法競技大会や総合文化祭で何かと目立っている私が同じ調理台を使って調理をするともなると、観客の視線は自然とこちらに向く。心なしかセドリックの解説も私たちに向けたものが多いような気がした。
しかし、そんなことを気にしていても仕方ない。
私はあらかじめ考えておいたものを決められた手順でこなすだけだ。
試合も終盤に差し掛かると、色々なところからいい匂いが漂ってくる。向かいのイレナ・エリーチカは既に仕上げの作業に入ったらしい。
「あら、貴方はもう終わり?完成したようには見えないけど」
「私のは残り5分が勝負なので」
私はほとんどすべての工程を終え、後は時間が過ぎるのを待っていた。
パフェに使うものは基本的に長い時間持たない。アイスは溶けるし、中に入れるムースは重力で下がってきてしまう。
イレナが作っているのはアップルタルトだ。これまた派手な見た目で、今は仕上げにと何やら金の粉をまぶしている。あれ金箔とか言わないよね?
「残り時間5分です」
セドリックのアナウンスと同時に私は動き出す。
待っていた間にシュミレーションしていた通りの無駄のない動きで1つ1つ丁寧に仕上げていく。
「出来た!」




