アイデア
声を掛けられ振り返ると、そこにはルーカスが立っていた。
手には古代魔法に関する本が握られている。大方授業をサボって一日中植物園でこの本を読みふけっていたのだろう。彼は眠そうに目をこすりながら尋ねてきた。
「今度スイーツ大会に出場することになったから、何かいいアイデアないかなって探してたの」
「スイーツ大会……?」と彼は軽く考えた後、あぁあれかと思い出し頭を掻いた。彼にとっては面倒な行事の1つでしかなかったのだろう。覚えてはいるものの、あまりピンとは来ていないようだった。
「アイデアっていうのは何だ?」
「うーん。何かスイーツに使える植物とかないかなって」
私は思い付きで口にしたことを後悔した。
ここはウィンチェスターアカデミーの植物園。つまりは研究機関の1つであり、観光のための場所ではない。ほとんどが魔法薬に使用するために育てられており、そんなものをスイーツに使うなど流石に馬鹿なされるだろう。
「なるほどな」
「……え?」
しかし彼はそれを一切馬鹿にすることなく、むしろなるほどと納得し始めた。
ブツブツと独り言を言っている彼に何と声を掛ければいいのかも分からないので、とりあえず笑ってごまかしていると、彼は何かを思いついたようで私の手を引いて、寒帯エリアへと向かった。
寒帯エリアには、その名の通り寒いところで育つ植物たちが植えられている。
先ほどいた温帯エリアとは違い、制服を着ていてもブルブルと震えてしまうような寒さである。
私は白い息を吐きながら、ルーカスにどうしたのかと尋ねた。
するとルーカスはその質問に答える前に1人である植物の方へ向かっていった。
仕方なくついて行くと、そこにはリリアスという花が咲いていた。この花は魔法薬にも度々用いられる花で、私ももちろん知っていたし使ったこともある。
「この花はこうやって少し魔力を流すと光るんだ。北の地では花びらはジャムなんかにして食べたりもする」
私はへぇーと驚きの声を上げた。元の世界にもバラジャムとかはあったけどそう言うノリなのだろうか。でもどうしてそれを私に?
そう思って尋ねると、ルーカスは「こういうのを探してたんじゃないのか?」と首を傾げた。
あ、なるほど。これをスイーツに使えば派手な見た目でなくとも目立てるよね。私はルーカスにお礼を言って図書室で他にも特定の面白い反応を見せる植物や薬草が無いか調べた。
そして数日後、各部活の代表者と共にスイーツ大会のお題が発表される。
私は早速廊下の掲示を見に行った。
「今年のテーマは……夜空?」
なにその抽象的すぎるテーマ。例年は『イチゴを使ったスイーツ』や『フルーツタルト』などと言ったお題だったので、今年のテーマの異質さには私だけでなく多くの人が動揺していた。
そもそも夜空って食べられないじゃん。
元の世界のスイーツを作ろうにも、夜空をイメージしたスイーツなんてほとんど食べた覚えがない。
やはりなんでも乗せられるパフェいいだろうか。
私が色々なアイデアを頭の中で張り巡らせていると、通りかかったエドガーがご機嫌で声を掛けてきた。何でも今回の優勝スイーツをウィーブルで期間限定で販売する許可をもぎ取って来たらしい。
流石と言うか何と言うか。
私は返事もそこそこにもっとたくさんのスイーツのアイデアを出すべく図書室に向かった。




