スイーツ大会
「「……え?」」
14700。その数字を見た瞬間、私たちは全員同じタイミングでフリーズした。
「嘘だろ。こんな数字見たことないぞ……」
「でも確かに治癒魔法を使えるだけの魔力と言えば理解できなくは……」
2人共1人言なのか話しかけているのか良く分からない様子で言葉を発していた。
多いだろうなとは思っていたけれど、まさかここまでとは。恐るべきヒロイン補正。
「この推定って言うのはなんだ?」
ルーカスが数字の横に書かれている推定の文字を指さした。
「分からないけど、多分量られたのって私が目を覚ましてからだから魔力を吸い取られたあとなんだよね。朝魔力測定器の方でやった時は異常なしって言われたからその時だろうけど、完全に戻っているかは分からなかったから」
そう言うと2人の顔が面白いくらいに青ざめた。
まぁわかる。私も泣きたい。
これだけの魔力を持っていて普通の生活とかまず無理だよね。
未だ開いた口が塞がらない様子の2人に口外しないよう口止めをして私たちはそれぞれの部屋に戻った。
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「スイーツ大会?」
何ですそれ?
翌日エドガーから聞かされた言葉は、私を呆れさせるのには十分だった。
なんでもこの時期恒例の催しらしく、甘え切った子息令嬢が下働きの者の苦労を知るために行われているのだとか。
確かに最近は学校行事はなく落ち着いた学校生活ではあったものの、どうやら神様はこの束の間の休息さえ許してくれないらしい。
運営するのはもちろん生徒会。企画から当日の進行までのすべてを執り行う。
まぁ事務仕事だけならいいか。
いままでエドガーやアルバートに任せきりだった分、これくらいは副会長として働いておかないとね。
けれど、そう思った私は甘かった。
「なんで私が出るんですか!?」
このスイーツ大会は個人の参加にすると出場者が足りなくなるため、各部活からの参加者を義務付けている。文化部運動部関係なく。
そしてそれは運営を任されている執行部とて例外ではなかった。
生徒会。正式名称は生徒会執行部。
生徒会長こそ選挙で選ばれるものの、それ以外は会長の指名で役職が付き、一応は部である以上ちゃんと入部届も出した。
まさかあれがアダになるとは。
生徒会も部である以上参加は免れない。
そこで問題になったのは誰が参加するか。もちろんエドガーがいないと運営が回らないので除外。残った3人のうち、スイーツ作りと言えば。
以上が私に白羽の矢が立った経緯である。
確かにウィーブルのメニューはほとんど私が考案しているし、スイーツとて作れないわけではなく、むしろ得意な部類だ。けれど、大会となると話が違う。
そもそも企画の趣旨を考えれば絶対にセドリックやアルバートが出場するべきだと説得を試みたが、結局は上手くかわされてしまった。
スイーツ大会では1つのお題に沿って参加者全員が一斉に調理を行い、制限時間3時間以内にスイーツを作り上げる。出来上がったスイーツは1列に並べられ、審査員による味や見た目の評価で結果が決まる。
優勝した部活はその次の年の部費が2倍になるとあって、毎年意外と盛り上がるのだそう。
昨年の大会の様子や優勝作品を見せてもらったが……
とにかく派手。流石貴族と言うべきか、どの作品も大きくて豪華な作りばかり。
大量生産は必要なく、魔法が使える分、装飾などはその人のセンスがもろに反映される。
正直こんなスイーツは作ったことがない。
味はともかく見た目では私の作ったスイーツは完全に埋もれてしまうだろう。
「あら、御機嫌よう。お久しぶりね、ミス・シャーロット」
何を作るかと考えながら廊下を歩いていると、思わぬ人物に遭遇した。
「ミス・エリーチカ。御機嫌よう」
優雅に挨拶をする彼女は、今年の生徒会選挙でエドガーと争ったイレナ・エリーチカだ。名家のお嬢様で、私からすればザ・ウィンチェスターの生徒といった人物だ。いつも誰かしらと一緒にいるのを見かけるが、今日は彼女1人らしい。
「そう言えば、スイーツ大会にエントリーなさると言うのは本当かしら?」
流石、耳が早い。というか早すぎない?さっき決まったんだけど。
おそらく今年の執行部からは私が出ると言ったうわさを聞き付けたのだろう。
「えぇ、そうです」
私がそれを肯定すると、彼女は目を見開いたのち嬉しそうに顔をほころばせた。
「そう。でしたら思ったよりも早く戦えそうですわね」
何のことだ?と思い首を傾げると、彼女は「わたくし、スイーツ研究会の部長をやっておりますの。今年優勝すれば正式に部にしてくださるそうですわ。お互い、正々堂々頑張りましょうね」と言って去ってしまった。
研究会ということは、おそらく彼女たちが設立したのだろう。というかスイーツ研究会って、もう名前だけで優勝候補なんですが。そう言えば前に会った時、正攻法で戦うとか言ってたな。
まぁ私としてもやるからには勝ちたい。私は元来負けず嫌いなのだ。
エドガーからは、もし優勝すれば増額した部費の一部を回してくれると言われているし、頑張らない理由はない。
とはいえそう簡単にアイデアが浮かぶはずもなく、気が付けば私は植物園に来ていた。
中に入るとそこにはたくさんの植物が植えられており、私は何かの参考になるかもと園内をブラブラと散策していた。
「おい、こんなところで何やってんだ?」




