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ここはどこ……?

目を開けると知らない天井。自分の部屋ではない。

目線だけを動かして周りを見ると、自分の寝ているベットの周りがカーテンのようなものに囲まれていることが分かった。病院などに独特の薬品のにおいがする。十中八九、ここは学校の保健室だろう。


どうしてこうなったのか記憶を辿る。あぁ、確か寮に戻ろうとして階段を降りようとしたときに後ろから誰かに背中を押されて……そのまま落ちたのか。落ちている途中に振り向いたけれど犯人の顔は見えなかった。笑い声とタイミング的にうちのクラスかセドリックのクラスの女子生徒である可能性が高い。制服の時と同一人物なのかは分からないが。というか犯人がわかったところで警戒する以外に出来ることもないので犯人探しをしても仕方がないのだけれど。


「あら。目が覚めた?」


カーテンを開けて一人の女性が入って来る。大方養護教諭だろう。

返事をして起き上がろうとすると、頭に鋭い痛みが走る。頭に手を当てて痛みに耐えていると「ダメよまだ起き上がっちゃ」とベットに体を戻される。さっきまでは気づかなかったが冷静になると体の節々が痛い。彼女の話によると、私は階段から落ちてそのまま意識を失っていたらしい。骨折こそしていないものの足首の捻挫に加えて全身の打撲、頭も打ったそうだ。大事をとって5日間は全体安静とのこと。


……え?待ってよ。それじゃ選考会出られないじゃん。

あれだけ練習したのに。油断した。これは完全に私の落ち度だ。

セドリックやエドガーと接触すれば危険があると知っていたのに、悪役令嬢が出てこないからと何の策も講じず無視をした。

私、馬鹿だな。……悔しい。


「大丈夫ですか?エマさん」


「……エドガー先輩?」


突然現れたエドガーを見て、私は必死でこぼれかけていた涙を引っ込めた。

なんでも意識を失って倒れていた私を見つけてここまで運んでくれたのはエドガーなのだという。

そういえば生徒会室はこっち側の階段を使うし、なにか用事でもあったのかな?

助けてくれたことに対して丁寧にお礼を言うと、エドガーはなぜか怪訝な顔をした。


「なぜ階段から落ちたんです?」


「……あぁ。お恥ずかしい話ですが、最近少し疲れていて。足元をよく見ておらずそのまま階段を踏み外してしまったんです」


階段から落とされたなどと言う訳にはいかないので、私はあくまで自分の不注意だと説明した。

なぜならこれはゲームで見覚えのあるシーンだから。あの時ヒロインはエドガーに何者かに背中を押されたと説明する。確かそれが原因でしばらくエドガーと行動を共にするんだよね。それが本格的にエドガールートにいくイベントだったはず。


どうしてイベントらしきものが進んでいるのだろう?

とにかく私はイベントを進めるわけにはいかないので、エドガーの助けは必要ない。

選考会に出られないのはすっごくムカつくし今から犯人を殴ってやりたい気分だけど、今回に関しては私の認識が甘かった。それだけ。この話は終わり。


「嘘ですね」


え?


「貴方、地面に落ちる直前に後ろを振り向いているんですよ。不注意でなら、まずは手をつくなりして体を守ろうとするはずです。貴方は誰かに落とされて、本能的にその犯人の姿を見ようとしたのではありませんか」


彼はおしゃれな眼鏡をクイっと上げてそう言った。流石生徒会長というか商家の息子というか。頭がいいだけじゃなく洞察力や推理力まで良いなんて。

「どうです?」とニヤニヤしている顔はムカつくけど、やっぱり顔はいいんだよなぁ。


「すみません。記憶になくて」


変な言い訳をして揚げ足を取られるくらいなら、シラを切り通した方がいい。エドガー相手なら特に。エドガーはどれだけ言ってもシラを切り通す私に理解が出来ないと言った顔をしていたが、私に話す気が1ミリもないとわかると「お大事に」と言って保健室を出て行った。

てっきり何か対価を求められるものだと思っていたからそれが無くてラッキーだなぁと思いつつ、私は思っていたよりあっさりと引き下がるエドガーにどこか怖さを感じていた。




魔法競技大会代表者選考会当日。

私は客席から競技場を見下ろしていた。

座学には出られるものの運動は一切禁止。いまだに体が痛むので仕方がないとは分かっているものの、やっぱり悔しい。新人戦の選考会は1年生に対する期待から上級生もたくさん見に来ている。

魔法競技大会に出場することは貴族にとっても優秀であるというステータスになるそうで1年生は私を除いて全員参加しているという。


今は男子のパワーサープレッションの選考会が行われている。

パワーサープレッションは技術や努力云々ではなく純粋な魔法力が試される。心配しなくてもセドリックの圧勝だろう。先ほどのウィザードシューティングもセドリックが1位で選考会を通過していた。セドリックは毎日会いに来て出られなかった授業や近況について話に来てくれていたが、避け始めてから練習は見ていなかったためその成長に驚いた。ついこの間見たときよりも洗練された魔法。きっと魔法競技大会本番までにも彼はもっと成長するのだろう。


「エマに僕の勝利を捧げるよ」と言われた時は流石にドキッとした。セドリックからしたら社交辞令のようなものなのかもしれないが、純日本人の私には刺激がキツイ。ただでさえ国宝級の顔なんだから勘弁してよ。


今まで魔法競技をしているところを見たことが無かったが、エドガーもやはりすごかった。彼はセドリックのように魔法力で圧倒するというより、その見事に計算された魔法の構築やスピードがずば抜けていた印象。セドリックが天才タイプだとしたらエドガーは秀才タイプって感じかな。


私はセドリックがパワーサープレッションの選考会も無事通過したのを見届けてから自分の寮に戻った。




代表が決まり学校の雰囲気も落ち着いてきた頃、久しぶりに生徒会室に呼び出された。


「お体の具合はどうですか?」


「おかげ様で。その節はありがとうございました」


私は漸く許可が下りて運動もできるようになっていた。しかし、どうして呼び出されたのかわかりますか、と聞かれてももちろん検討などつくはずもない。特にあれから変わったこともなく、比較的穏やかな日々を過ごしているつもりなのだが。校則を破った覚えもないし、呼び出される理由などあるのだろうか。


「選考会が終わり、各競技の代表が決まった。でもまだ決まっていない競技があるのをご存じですか?」


決まっていない競技?誰か棄権でもしたのだろうか。でもそれなら補欠がいるはずだし……



「エマ・シャーロットさん。貴方に魔法競技大会、フラッグサバイバルへの出場を依頼します」




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