二十六、こんにゃく
友人が両親の留守中に家を任されたというので、僕ともう一人の友達の合わせて三人で彼の家に泊まり込むことにした。
彼の家は築百年を超える俗に言う古民家で、いかにも幽霊が出そうな雰囲気だった。
こんな場所を自由に使っていいなんて言ってもらえる機会は滅多にない。
テンションが上がった僕たちは肝試しの真似事をしたり、親父さんの焼酎を拝借して酒盛りをしたりと好き放題に楽しませてもらった。
深夜二時を回り、もう一人の友人は酔い潰れて眠ってしまった。
トイレに行きたくなった僕は顔だけ友人の方へ向け、喋りながら廊下へ出る襖を開けた。
一歩踏み込んだところで横っ面に何かが当たる。
驚いて正面に向き直ると、そこに何かがいた。
灰色っぽくて柔らかくて生臭い。
お化け屋敷ごっこで使ったこんにゃくを回収し忘れたのかと思ったが、可愛らしい手足のようなものがついていた。
見た目だけで言えば手のひらサイズの「ぬり壁」のようだ。
向こうも面食らったように静止していたが、我に返ったように廊下の向こうへと消えていった。
呆然と立ち尽くす僕を見て、この家の住人である友人がケタケタと笑う。
「……なんだ今の」
「こんにゃくだよ」
そう言ってまたケタケタと笑う。
彼曰く、この家にはこんにゃくの妖怪が住んでいるのだという。
宴会などで盛り上がっていると、様子が気になるのかこうして出てくるらしい。
その正体は彼にも、彼の両親や祖父母にもわからないという。
「まあまあ、害はないから」
そう諭されて、僕はトイレへと続く真っ暗な廊下に放り出された。




