二十四、二人の隣人
隣の部屋には二十代前半の青年が住んでいる。
彼の仕事は忙しいらしく、スーツ姿で出ていったと思ったら二、三日帰ってこないなんてこともザラだった。
ある晩コンビニに行こうと家を出ると、ちょうど青年と鉢合わせた。
青白い顔をした彼は何を言うでもなく幽霊のように部屋の中に入っていった。
きっと仕事で疲れているのだろう。
内心同情しながらすれ違って、私は自分の用を足すために足を動かした。
その日から夜になると私服姿の彼が帰宅するのを見かけるようになった。
彼は仮眠のために帰宅しているらしく、日付が変わる少し前に帰ってきて私が起きてゴミ出しに行く朝六時くらいに再び私服姿で家を出ていく。
そしてたまにスーツ姿で帰って来て、一日二日休むとまたスーツで出社しているようだ。
スーツ姿で出かけた彼が私服に着替えて帰ってくるのは不思議なことだった。
しかし、声をかけるのも憚られるほど彼はやつれて見え、私はその姿を見送るしかできなかった。
とある休日、偶然隣の部屋の青年と鉢合わせた。
世間話ついでに、最近私服姿で帰ってきていることについてそれとなく探りを入れてみた。
すると彼は驚いた様子で詳しい話を聞かせてくれと言う。
私は自分の見たものを全て話した。
すると彼は気まずそうに頭をポリポリと掻く。
「人に話すと気味悪がられるのであまり話さないんですが、実は昔から生霊を飛ばしてしまう癖があって……。仕事中に『帰りたいなぁ』って考えていたので、もしかしたら生霊だけ帰っていたのかもしれませんね」
そう零した彼の悲しそうな笑顔が、どうにも忘れられない。




