二十三、カラオケボックスの歌姫
それは、友人とカラオケボックスに行った時のことでした。
その日通された部屋は機械の調子があまり良くなかったのか、歌っている最中、マイクにしょっちゅうノイズが入っていました。
ノイズは段々と大きくなり、歌に集中できないくらいになったので次の曲を歌い終わったら部屋を変えてもらおうと話していました。
そして、最後と決めていた曲を歌い始めた時。
突然部屋の明かりが消えました。
マイクのノイズも大きくなり、それが人の声に聞こえ始めます。
「下手糞!」
私でも友人でもない声がして、マイクが一切きかなくなりました。
パニックになって部屋から出ようと扉を押しましたが、びくりともしません。
フロントに繋がるはずの電話も無音でした。
「どうしよう、どうしよう」
二人で顔を見合わせてガタガタと震えていると、唐突に歌声が響き出しました。
その歌はプロのように上手く、不思議と恐怖より感動を覚えていました。
この歌と比べればたしかに私たちの歌は下手だ。
怒られても仕方がない。
そう思えるほどでした。
謎の声は一曲歌い上げると静かに消え、また恐怖がぶり返してきたのです。
その時には電気は元通りつき、部屋の扉も普通に開くようになっていました。
慌ててフロントに駆け込んで店員さんにマイクのチェックもしてもらいました。
けれど、異常はないとのことでした。
部屋を変えてもらってまで歌う気分ではなくなってしまったので、私たちはそのままカラオケボックスを出ました。
後日聞いた話なのですが、音痴な人があの部屋に入った時だけ、あの幽霊が出てくるそうです。
それを聞いてからあの店には行く気をなくしてしまいました。




