十八、丑の刻参り
風呂上り、火照った体を冷やそうとパンツ一枚で窓を開けてベッドに腰掛けた。
週末の夜は夜更かしをしながらホッと一息つくのが習慣になっていた。
静寂に包まれた街を流れる秋の夜風はほんのりと冷たく心地いい。
ふっと窓の外へ視線を向けると、道路を挟んだ所にある神社の境内で白い影がゆらゆらと動いているのが目に入った。
――幽霊か?
興味半分で眺めていると、揺れ動く影はこちらに気付いたのか、ぴたりと動きを止めた。
それが白装束をまとった人間だとわかったのは、その人物と目が合ったからだった。
その恰好から丑の刻参りだと直感した。
相手もこちらを認識したらしい。
不思議なことに、かなり離れているはずの相手が鬼のような形相になってこちらへ向かってくるのが直感的にわかった。
ベッドに潜り込んで身を隠し、いつでも警察に連絡できるように携帯電話を握りしめ息を殺した。
ガチャン、と俺の部屋の窓ガラスが割れる音が響く。
おいおい、ここは二階だぞ?
俺が絶句していると、鋭い痛みに襲われた。
ガン、ガン、と衝撃が何度も繰り返され、女の何やらブツブツと言う声が聞こえる。
「お前のせいで、お前のせいで……」
女はそう繰り返していた。
抵抗しようにも女が押さえ込む力が強すぎて振りほどくことができない。
もがくこと数分。
女が呻くような声が聞こえた。
今だ! と体を起こそうとした瞬間だった。
首筋にひと際強い衝撃が走った。
「今朝未明、××市の民家にてこの家の住人と思われる男性と身元不明の女性が死亡しているのが発見されました。遺体には十五センチほどの釘が複数打ちつけられており、警察は女性の身元の特定を急ぐとともに目撃情報を求めています」




