十七、見守り
こんな時間にホラー映画なんて見るんじゃなかった。
後悔しても時は既に遅い。
レンタルしたDVDの返却期限が明日に迫っていることに気付き、入浴を後回しに黙々と映画に見入ってしまったのだ。
映画を観終わる頃には、時計の針は十二時を回っていた。
夜の暗くて静かな空間は何とも言えず気味が悪い。
浴室で一人になった途端、恐怖が湧き上がってきた。
髪を洗う間、シャンプーが入らないように目を閉じる。
そうすると視覚の代わりに聴覚が鋭くなる。
ぽたぽたと床に落ちる水音が耳についた。
自分の髪が背に落ちただけなのに、誰かに触られたのではないかと錯覚してしまう。
背後は壁だとわかっているのに、何かの気配を感じるような気さえしてくる。
ねっとりと纏わりつく不安を押し流すように、熱いシャワーで全身を洗い流した。
湯船に肩まで浸かり、ほっと一息つく。
――ほら、ただの杞憂だ。
ぽたり、と滴り落ちた水滴に釣られて視線を上げると、逆さ吊りになった男の顔が天井から生えていた。
驚きのあまり声を出せずにいると、目が合った男はにやりと笑い天井に吸い込まれるように消えていった。




