十五、白装束
彼氏と付き合い始めて三年。
待ちに待ったプロポーズを受け、彼が私の両親に挨拶をしに来ることになった。
三年間一緒にいたけれど、私の実家に来ることも私の両親と会うことも初めてだ。
心なしか両親もそわそわしている。
その空気に私まで落ち着かなくなって、座布団をミリ単位で調整したり、予定の十分前から外へ出て彼を迎えるため家の周りをぐるぐる歩き回ったりしていた。
我が家へ来た彼は、緊張からか終始硬い表情を浮かべていた。
それでも無事に私の両親への報告も済み、次は彼の実家へという段階にきて、彼が深刻な口調で「別れたい」と言い出した。
理由を問い詰めてもはぐらかすばかりで答えてはくれない。
しぶとく尋ね続けると、しばしためらってから「お前の家に行ってから白装束が……――」と言った。
ところが、それきり彼は口をつぐんでしまった。
その日から、私たちは結婚を誓い合った仲とは思えぬほど一気に疎遠になってしまった。
別れ話を切り出されてから一週間。
どうしても気になって彼の携帯に電話を掛けた。しかし、応答はない。
なんだか嫌な予感がした。
幸い彼のアパートの合鍵は預かっている。
様子を見に行こうと決めた。
彼の部屋の前に立つと、これまで嗅いだことのない臭いが鼻を突いた。
合鍵を使って彼の部屋の鍵を開け、恐る恐る中へ入る。
その瞬間、私は腰を抜かしてしまった。
「け……警察っ」
玄関のすぐ横にある上着掛け。
その出っ張りにネクタイを結び、彼は首を吊っていた。
死後かなりの時間が経っているのか、強烈な腐臭が漂っている。
首吊り死体の特徴ともいわれる伸びた首。
足元にはノートの切れ端が落ちていた。
《助けて
白装束が》
文章はそこで途切れており、何が彼を死に追いやったのかはついに知ることができなかった。




