十三、帰省
夜中、家の中が騒がしいので目が覚めた。
物音がするのは私の寝室がある二階ではなく、下の階のようだ。
飲み会帰りで思考力の落ちていた私は、泥棒にしてはやけに賑やかだな、なんて暢気なことを考えながら様子を見に行くことにした。
廊下の冷たい床を踏んだ途端、一気に酔いが覚める。それと同時に恐ろしさが込み上げてきた。
夏なのに全身に鳥肌が立って止まらない。
最初のうちは自分の存在に気付かれまいと足音どころか息まで殺していた。
しかし、そんな私を嘲笑うかのように正体不明の侵入者たちはあまりにも無神経にどんちゃん騒ぎを続けている。
玄関に寄って弟のバットを手に取った。
心許なくはあるが丸腰で突撃するよりは何倍もマシだろう。
気配を消したまま、騒がしい部屋まであと襖一枚の所まで来た。
どうやら馬鹿騒ぎをしているのは一人や二人ではないらしい。
緊張で強張る体に喝を入れ、バットを握り直すと一思いに襖を開けた。
そこでは、見事なまでの宴会が行われていた。
「あら」
呆気にとられる私と目が合ったのは、どこかで見たことがあるような和服のおばさんだった。
慌ててバットを背後に隠して適当に視線を泳がせる。
その時、仏壇の上に掛けられていた遺影に目が留まった。
目の前にいるおばさんと全く同じ人の写真だ。
そこでようやくそのおばさんが私の祖母であることに気付いた。
その向かいには父が座り、父の叔父に当たる人からお酌を受けてペコペコと頭を下げていた。
――そういえば今年は父さんの初盆だったな。
「おかえり。ゆっくりしてって」
状況を飲み込んだ私はそう声をかけ、寝室に戻った。




