十一、砂場①
ある時、二つ年下の弟が落とし穴を作りたいと言い出した。
その前の晩にお笑い芸人が次々と落とし穴に落とされていく番組を観た影響だろうか。
当時小四だった私も一緒になってテレビを見て大爆笑していたので、二つ返事でスコップを持って公園に向かった。
公園の中でも掘りやすいところ、ということで私たちは砂場を選んだ。
大きな穴を作るため、親が家庭菜園に使う大きめの鉄製のスコップを持ち出して穴を掘った。
無心で作業を続けた結果、陽が暮れる頃には私の膝くらいの深さの穴が出来上がった。
当初の計画よりは浅かったけれど、穴の底に水が溜まり始めたのでこれで完成にしようと段ボールで蓋をしてその上から砂を被せた。
今思えば粗雑な作りだ。
落とし穴に落とすターゲットは二軒隣の男の子にしようと弟と決めた。
弟と同じか一つ年下だったその男の子は、反応が鈍くて少し変わった子だった。
そんなのろまが落とし穴に落ちたらどんな反応をするだろう。
弟と二人悪ガキじみた作戦会議をしながら布団へもぐる。
作戦決行は翌日。ワクワクしてなかなか寝付けなかった。
次の日、男の子を公園に誘い出すと上手いこと落とし穴がある砂場へ誘導した。
私と話しながら歩いている途中、急に足を取られた彼は驚きで目を丸くして、そのまま穴に吸い込まれる。
初めは腹を抱えて笑っていた私たちだったが、どうも様子がおかしいことに気が付いた。
私の膝の深さしかない穴に、男の子の体はすっぽりとはまってしまったようだ。
おかしいと思い穴を覗き込むと、そこには水の溜まった浅い穴があるだけだった。
「いない! 消えちゃった!」
とんでもないことをしてしまったと慌てた私たちは家に飛んで帰って母親に事情を説明した。
子供の拙い説明だからか、母親にはあまり伝わらなかった。
強引に手を引いて公園に連れて行き、ここに落ちた子が消えたと何度も繰り返し訴えた。
その後、泣きじゃくる私たちは母親に連れられて二軒隣の家に謝りに行った。
「そんな子いませんよ」
私たちの説明を怪訝な顔で聞いていたその家のおばさんはそう言ってぴしゃりと戸を閉めてしまった。
母親もそこの家に子供なんていないはずだと言っていた。
けれど、私たちは確かにその家に男の子を迎えに行ったのだ。
私たちがあの穴に落としたのは一体何だったのだろう。




