十、赤い鈴
六歳という冒険したい盛りの年頃の綾は、自然に囲まれた村で伸び伸びと暮らしていた。
「遠くに行っちゃだめよ」という母の声に生返事をして、両脇に草が生い茂った道をずんずん歩いて行く。
綾の母親が心配しないのは、幼い娘の背負ったリュックに赤い鈴を括り付けているからだった。
姿が見えなくなっても、チリンチリンと鳴る鈴の音でだいたいの居場所がわかる。
田舎の道は車も少なく、綾の冒険には最適だった。
チリンチリンと綾が歩くたび鈴が鳴る。
その音はなんとも心地よかった。
チリンチリン、チリンチリン、……しゃらん。
自分の鈴とは違う音がする。気付いた綾は足を止めて振り向いた。
そこには和服姿の女が立っていた。
彼女が歩くたびに髪留めに付いた鈴のしゃらん、しゃらんと心地よい音が響く。
綾は目を閉じてその音に耳を傾けた。
「お嬢さん、鈴が好きなの?」
鈴の音に負けないほど透き通った声で女が聞く。
綾は迷うことなく首を縦に振った。
「うちには沢山の鈴があるわ。遊びに来ない?」
「いくー!」
しゃらん、と鈴を鳴らしながら女が細い道へ入る。
綾はその道を知らなかったが、魅入られたように後を追った。
しゃらん、チリン、チリン、しゃらん。
「その鞄、重いんじゃなくて? 取る人などいないわ。置いておゆき」
女に促されるまま、綾はリュックを道端に下ろした。
身軽になった綾は跳ねるように女の後ろをついて行く。
綾の鈴の音が遠くなったのに気付いて心配した母親が探しに出たのは、綾が女と出会ったわずか数分後だった。
ところがいくら探しても綾の姿はどこにもない。
大慌てで警察に連絡し、その日から大規模な捜索が行われた。
数か月に及ぶ捜索の甲斐もなく、見つかったのは古びた祠へ続く道の入り口に落ちた綾のリュックだけだった。
獣道を進んだ先にある古びた祠。
「鈴ノ宮」と刻まれた石碑の立つその祠では、人々が奉納した無数の鈴がちりちりと鳴っていた。
その中に真新しい赤い鈴があることに気付く者はいない。




