三、迷宮
巨大迷路がオープンしたらしい、という噂が娯楽の少ない田舎を一気に駆け巡った。
変わり者として知られる爺さんがトウモロコシ畑で何かをしているようだ、というのは前から話題に上がっていた。
それが突然「巨大迷路」という立て看板を突き立てて営業し始めたというのだ。
素人がたった一人で作り上げた迷路だ。どうせ大したこともないのだろう。
そう見くびって僕らは三人で巨大迷路に挑戦することにした。
「千円」
爺さんはずいっと手を差し出す。
全員まとめての金額かと思いきや、それぞれに千円ずつ要求してきた。
一人千円は高すぎやしないか? みんなで顔を見合わせたがここまで来て引き返すのも癪に障る。
「まいどぉー」
爺さんは歯のない口を大きく開け、笑いながら僕らを送り出した。
素人の手作りということもあり通路の幅はまちまちだった。
狭いところは体を横向きにしてやっと通ることができるくらいで、壁を作ろうとして失敗したのか単に通路が狭いだけなのか判断に苦しむほどだ。
足元は普通の畑の土なので、ところどころぬかるんでいる。
お世辞にも出来がいいとは言えない迷路はトウモロコシとトウモロコシの間から景色も見えるし、奥にはわかりやすくアーチ状の出口が据えられている。
これだけわかりやすいのだから十分もあれば攻略できるだろう。
初めはそう思っていた。
しかし、歩けども歩けどもゴールは見えてこない。
それどころか何度か入り口に戻ってしまい、そのたびに爺さんに「諦めるのか」と意地悪い笑顔を向けられた。
迷路は壁に手をつきながら歩いていればいずれゴールに辿り着けると聞く。
それを実行に移そうとしたが、僕たちが辿り着いたのは爺さんのいる入り口だった。
「なあ、これ出口に続く道なんてないんじゃないか?」
腹立ちまぎれに声に出す。
爺さんは普段変わり者扱いしてくる周りの人間に仕返しするつもりでこんな迷路を用意したのではないか。
友人たちも同じことを考えていたらしく、強行突破で脱出しようという話になった。
トウモロコシの生垣をこじ開けて隙間を潜り抜ける。
その先にあった生垣も同様に掻き分けて進んだ。
その次も、その次も、その次も。
ゴールのアーチに向かって進んでいるはずだが、なかなかアーチは近付いてこない。
どれだけ進んでもトウモロコシの生垣の外へ出ることができなかった。
夢中でトウモロコシを掻き分けていたせいか、気付くと友人たちとはぐれてしまっていた。
声は聞こえるのにどこにも姿が見当たらない。
「……どうなってるんだよ」
三十分は歩いただろうか。
疲れ切った僕が呆然として呟くと、すぐそばから爺さんの声が聞こえた。
「イヒヒヒ。諦めていいんだぞォ?」
爺さんがいる! ということは入り口はすぐそこだ。
この際出口でも入り口でも出られればそれでいい。
これが最後、と生垣を蹴破った。
そこに爺さんの姿はなく、また生垣があった。




