一、こたつ
それは、我が家に初めてこたつがやってきた年のことだった。
こたつに潜り込み、自堕落に生活する。
その幸福を知ってしまった私は、こたつから抜け出すことができなくなっていた。
特に幸せなのがうたた寝をしている瞬間だ。
親からすれば迷惑極まりないようで、しばしば私をこたつから追い出そうとする。
「寝るなら自分の部屋で寝なさい」
「わかってる……。もうちょい」
答えるのも億劫だが、叩き起こされてはかなわない。
適当に返事をして、もう一度瞼を閉じた。
私がうとうとしていると、足に何かが当たった。
毛のような感触と、足にかかる吐息。私の家では動物を飼っていないはずだけれど……。
一体何ごとかと布団の中を覗き込んだ。
こたつのオレンジ色のライトの中に照らされるもの。
それは見知らぬおじさんの頭だった。
なぜか、首から下が見当たらない。
頭頂部が禿げ上がったおじさんは、私と目が合うと驚いたように目を見開いた。
「キャァッ……!」
私が悲鳴を上げると、おじさんの頭はゴロゴロと転がって逃げようとした。
こたつを抜け出した私は、おじさんの頭が向かった方へ回り込んで待ち構える。
しかし、生首が転がり出して来る様子はなかった。
恐る恐るこたつ布団を持ち上げてみたが、こたつの中にも見当たらない。
一瞬しか見えなかったけれど、全く見覚えのない人だし、心当たりだってなかった。
親に話しても「夢でも見てたんじゃない?」と相手にしてもらえなかった。
ところが、それから数日後のことだ。外から帰ってきた母親がそそくさとこたつに足を突っ込んで悲鳴を上げた。
母親は何も語らなかったが、その日、私は母親と一緒にこたつを押し入れに片付けた。




