十八、絵本②
担当していた作家が自殺した。
そんな知らせが入り、現場は嵐のような慌ただしさに見舞われた。
亡くなったのは芸術系の専門学校を出て以来およそ二十年間、第一線を走り続けてきた女性絵本作家だ。
彼女は専門学校時代に学んだ知識を活かし、布製の絵本を作ったり、飛び出す絵本を作ったりと様々な趣向を凝らした仕掛け絵本をいくつも世に送り出してきた。
デジタルが現れると、誰より先にデジタル原稿にもチャレンジしていた。
その作品には常にピョン子がいた。
ウサギがモチーフのピョン子は子供たちの人気も高く、一躍人気シリーズとなった。
彼女は二十年間、ピョン子の物語だけを描き続けてきたのだ。
しかし、最近は良いアイデアが浮かばないと漏らしていたことを思い出す。
彼女は自殺する直前、最後の原稿をメールで送ってきていた。
そこに描かれていたのは、いつもと変わらず生き生きと動き回るピョン子だった。
「なんで……こんないい話が描けるのに……なんで死んじゃったんですか……」
幸せそうなピョン子に目頭が熱くなる。
その翌日、送り主不明のピョン子の絵が届いた。
こちらに手を伸ばし「たすけて」と訴える不気味な絵だった。
それからも同様の絵が送られてきた。
構図はほとんど同じだが、足元が少しずつ沈んできているように見える。
それと共に背景が赤みを増していた。
毎日同じ時間に届くピョン子の絵。
送信時間は彼女が自殺した時間とほぼ一致していた。
いつしかピョン子の顔はほとんど地面に埋まってしまった。
それでもなお、救いを求め手を伸ばしている。
女性作家の四十九日が終わると、ピタリと不気味な絵は届かなくなった。
しかし、私は最後に届いた絵が目に焼き付いて離れない。
それは気が滅入るような赤黒い背景の中、恨めしそうにこちらを見つめるピョン子の姿だった。




