七、着信
高校入学のお祝いで私は念願の携帯電話を手に入れた。
早速友達にメールを、と思った矢先だった。
着信を知らせるメロディーが鳴り響いた。画面に表示されたのは友達でも両親でもない、見知らぬ番号。
「……はい?」
恐る恐る電話に出ると、困ったような男の声が聞こえてきた。
『あのー……そのケータイ、どこで拾いました?』
私は耳から携帯電話を離し、怪訝な顔でそれを見つめた。
買ったばかりの携帯電話は傷一つない艶やかさを誇るように手の中に納まっている。
「これ、私の携帯ですけど……」
怪訝な顔のまま私が答えると、すみませんとだけ言って電話を切られてしまった。
あの間違い電話がきてからというもの、数日おきに間違い電話がかかってくるようになった。
サラリーマン風の男性からだったり、同世代くらいの女の子だったりと相手は毎回違う。けれど、皆口を揃えて「その携帯電話をどこで拾ったのか」と問いかけてきた。
あまりにも頻繁に間違い電話がかかって来るので、よくあることなのだろうと思っていた。
いつもの軽い愚痴感覚で友達に話してみると、友達は顔をしかめた。
「私、ケータイ持って二年くらいになるけど間違い電話なんて来たことないよ?」
友達の言葉にさすがに気味が悪くなった。
その時、着信音が鳴る。
ディスプレイに表示されたのは見知らぬ番号だ。
「もしもし?」
『ごめんなさいね。その電話、どこにあったかしら』
「……っ!」
知らない老婆の声だった。
私は反射的に通話を切り、救いを求めて隣にいた友達に視線を向けた。
彼女も顔を硬直させ、無理だと何度も首を横へ振る。
あまりにも気味が悪いので、そのまま友達に付き添ってもらってショップへ向かうことにした。
駅前の大きな交差点で信号が変わるのを待つ。
これを渡ればすぐにショップが見える。
やっと解放されるのだという安心感が込み上げてきていた。
青信号と共に軽やかに歩き出す。
その時、右手に持っていた携帯電話が震えた。
あろうことか、気が緩み切っていた私はその電話に出てしまった。
「その電話、どこで拾いました?」
気が付くと、向かい側から交差点を渡ってきたおばさんに携帯電話を持った手首を握られていた。
私たちは悲鳴をあげ、全力でおばさんの手を振りほどいて逃げ出した。
息を切らしながらショップに飛び込んだ私は、どうにか事情を伝えて電話番号を変えてもらった。
店員さんは半信半疑のようだったけれど、あれだけ多かった間違い電話も今では一切ない。
似た電話番号を割り振られた人が多くいたとして、こんなにも同時期に携帯を落としたりするものだろうか。
疑問に思いつつも、それを確かめる術はなかった。