十三、見学者
あれは私が工場の夜勤に入っていた時のことだ。
私の勤める工場は日中なら人もたくさんいるのだが、夜勤帯となると一気に人気がなくなる。
日中と違って稼働する機械が大幅に減るのがその要因だ。
基本は機械が作業を行ってくれるので、私たちはその整備やその他細々とした作業をするだけでいい。
人が少ないからこそ、不測の事態でも起こらない限り雑談でもしながらまったりと仕事ができる。それが夜勤最大の利点だった。
機械も正常に作動し、特にやることがなくなったので、明日の日勤帯で使う資材を倉庫へ取りに行くことにした。
暇そうにしていた同僚も捕まえ、二人並んでガラガラと台車を押して歩く。
「……誰かいる?」
同僚が声を漏らした。その視線の先には確かに人影のようなものが列を成して立っていた。
ひとつ、ふたつ、みっつ――。
計六体の人影は停止した機械をじっくりと観察し、ぞろぞろと移動してはまた停止した機械に見入っているようだった。
「これは……を……するための器具です」
今にも消え入りそうなか細い声が何やら説明している。
私はその声に聞き覚えがあった。
「田中?」
半月前に急死した同僚の名前を呼ぶ。
田中と思われる人影はハッとしたようにこちらを向くと、スッと消えてしまった。
それに続いて五人の見学者も姿を消す。
その日から、夜勤帯で工場見学をする幽霊を見たという者がちらほらと現れ始めた。
見学者を引率しているのは田中で、声を掛けると消えてしまうというところまで話が一致した。
時には稼働していない機械の前に立ち、それを操作して見せていたこともあるという。
「自分が抜けた穴を埋めるために幽霊たちに工場での仕事を斡旋してるのかもな」
田中は真面目な奴だった。だから、そんな冗談でさえ真実味を帯びてしまう。
私は心の中でそっと手を合わせた。




