十二、おまじない②
思いのほか簡単に自分の思惑通りの行動を起こした同級生に、リナは驚きつつもこみ上げる笑いを隠しきれずにいた。
名前も知らない地味な彼女が、学年一の人気者であるケントと両想いだなんて許せない。
そんな思いから、丑の刻参りに使う藁人形とひとりかくれんぼを混ぜたでたらめな「おまじない」をけしかけたのだ。
木に引っかかった人形の回収をリナが申し出ると、彼女は素直に任せて部活へ行ってしまった。
この「おまじない作戦」一番の難所はいかに彼女を納得させ人形を作らせるか。
その次の課題として彼女が「おまじない」に使った人形をどう疑われずに持ち帰るか。
その二点に頭を悩ませていたリナは、拍子抜けしつつも人形を回収して帰宅した。
人形は木の枝に擦れてところどころ糸がほつれていた。
その中でも一番傷みの酷い右足を鋏で切り落としてみる。
歪になった人形に急に罪悪感が込み上げ、クローゼットの奥へ押し込んだ。
翌日、彼女は学校を休んだ。
部活の途中で右足を怪我したらしい。
思っていたよりも人形の効力が弱いようだ。
帰宅後、リナは残った足を切り落とした。
翌日は右腕、そのまた翌日は左腕と毎日一本ずつ手足を落としていく。
切り落としたパーツは誰にも見つからないよう細かく切り刻んで燃えるゴミに紛れ込ませて捨てた。
呪いが効いたのか、あの日から彼女は学校に来ていない。
そして、とうとう切り落とすものがなくなった人形を見つめ、リナは薄く笑った。
この調子でいけば七日目には呪いが成就することだろう。
台所へ向かい包丁を手に取る。
これで人形の腹を裂くつもりだった。
そこへ、母親が声を掛けてきた。
「リナ、あのお人形どうしたの」
気持ち悪い、と顔をしかめた母親にリナは詰め寄った。
呪いは人に見られたら失敗だ。
失敗すれば呪いは自分に返ってくる。
「……お母さんっ!」
人形を切りつけるつもりで手にしていた包丁は、気が付くと母親の胸に突き刺さっていた。




