六、マスコット
「貴方のためにマスコットを作ったの。初めてでちょっと歪だけど受け取ってくれると嬉しいな」
私が差し出したそれを、貴方は部室のゴミ箱に捨てた。
それも、私が部室を出て行くのを待ってから。
見ていないとでも思ったの?
貴方が部室を出た後、とめどなく流れる涙に溺れながらマスコットを拾って家へ帰った。
どうして?
どうして……――。
私の問い掛けに答えてくれる人はいない。
人の想いを踏みにじるなんて酷い。
いらないならいらないとハッキリ言ってくれた方がまだマシだった。
嘆き悲しむ私を、誰かが呼んだ。
それは、美しく澄んだ声。
“そんなに悲しまないで”
「……誰?」
私は辺りを見回した。
“ここだよ。貴女の作ったマスコット”
「ああ……あなたも悲しいでしょう? 捨てられてしまって……」
私が声を掛けると、マスコットは首を横へ振ったように見えた。
曲がった首に結んだ鈴が鳴る。
“悲しくはないよ。貴女が拾ってくれたもの。……ねぇ、ワタシを縛る鎖を外して”
優しく囁くその声に、私はマスコットに付けられたチェーンを外した。
鞄から外されたマスコットは、市販のものと比べれば大きく見劣りする。
でも、私にとっては想いのこもった大切なものだ。
“ありがとう。少しだけ目を瞑って”
私が目を閉じると、物音が聞こえ、私の額に何かが触れるのを感じた。
やがて、部屋に静寂が訪れた。
そろそろかなと目を開ければ、マスコットはすっかり消え去っていた。
あの日からマスコットも大好きだった彼のことも見ていない。
マスコットは、私の中にあった彼への恋心も一緒に持って行ってくれたようだ。
しばらくして、彼は部活中の事故で入院したらしいと知った。
お見舞いに行ったという友達は、彼のベッドに手作りらしいマスコットがあったと言う。
「今度は捨てられないといいね」
私が呟くと、友達は不思議そうな顔をした。




