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完全版・怪奇短編集  作者: 牧田紗矢乃
日常ノ怪①
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六、人形

 髪の伸びる人形や捨てても捨てても戻ってくる人形など、人形にまつわる怪談話は多岐にわたる。

 私の実家にもその類のものがあった。

 連れて帰っても連れて帰っても脱走を繰り返すという、一風変わったものだったが……――。




 幼稚園に入園したお祝いに買ってもらった着せ替え人形。

 それが件の脱走する人形だった。


 人形が最初に脱走したのは、買ってもらってすぐの時だ。

 寝る前にきちんとおもちゃ箱に片付けたはずの人形が朝起きたら姿を消していた。


 泣きながら家中を探し回ると、消えた人形はなぜか台所の食器棚から見つかった。

 私の背が届かない高さだったのに酷く叱られたことを覚えている。


 それからしばしば人形が姿を消し、そのたびに奇妙なところから見つかるようになった。

 あまりにもそういうことが続くので、さすがの母もおかしいと思ったらしく家庭用ビデオカメラを設置して深夜の部屋の様子を撮影することになった。


 翌朝、目が覚めてみると案の定人形はどこかへいってしまっていた。

 そこで、早速ビデオカメラの映像を確かめてみることになった。


 再生ボタンを押して、母と一緒に小さなモニターをじっと見つめる。

 しばらくは豆電球が灯っただけの薄暗い部屋の映像が続いた。


 幼かった私は代わり映えしない映像に飽きていつものように人形を探し始めた。

 その時、母が悲鳴を上げた。


 ビデオカメラの映像には、人形が自分で箱を開けて脱出し部屋を出て行くところが収められていたのだ。

 寝ぼけた私がイタズラしているのだろうと思っていた家族は驚き、人形を神社に持って行ってお祓いしてもらおうということになった。


 次の週末に神社へ行くと、「珍しいこともあるものだ」と言いながら神主さんがお祓いをしてくれた。

 それからしばらくは人形が失踪することもなく、一件落着と思われた。




 寒い朝だったから、お祓いから半年くらい過ぎた頃だろう。

 再び人形が姿を消したのだ。

 私たちは、再び人形を持って神社へ向かった。


 しかし、神主さんにこれ以上手の打ちようがないと匙を投げられてしまった。

 途方に暮れた私の母は、人形の手足をきつく結び、箱も厳重に縛って押入れの奥へ仕舞い込んでしまった。

 私には代わりに新しい人形が買い与えられ、人形は完全に封じ込まれた。




 その人形のことを思い出したのは、テレビで目にした心霊特番がきっかけだった。 

 我が家の人形はどうしているだろうかと押し入れの奥を掘り返す。


 そうして見つけ出した箱は当時のまま、たこ糸でグルグル巻きにされていた。

 母も乱暴なことをしてくれたなぁと苦笑いしながら箱を手に取った。


 軽い。まるで中身が入っていないみたいだ。

 あまりの軽さに取り落としそうになった箱を押し入れから引き出し、くるりと箱を回してみる。


 反対側の側面には、内側から突き破られたような穴が開いていた。

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