四、花子さん
「はーなこさん、遊びましょー」
子供たちが呼びかけてくる。
無邪気で楽しそうな、幸せな声。
「はぁい」
私は嬉しくて、返事をした。けれど――。
「キャーッ」
子供たちが悲鳴をあげる。
バタバタと足音を響かせ、逃げ帰ってしまった。
半分は私のせい。
普段喋らないから上手く声が出せなくて、地の底から響くような低くて掠れた声になってしまうから。怖がられても仕方ないわ。
でも、もう半分は――あの子たちのせい。
トイレの花子さんは子供を攫うとか殺すとか、勝手に物騒な怪談話を作る。
そして、面白半分で声をかけてきては私の返事に驚いて逃げ出してしまうのだから。
だったら呼び出さないで欲しいってのが本音。
よくも考えてみて。名前を呼ばれたら普通は返事をするでしょう?
私もその通りにしているだけ。
なのに……みんなして悲鳴をあげたりして。
いじめじゃない。
そんなの。
だから、私は返事をしないことに決めた。
子供たちがドアを何度叩こうと、どんなに大きな声で名前を呼ぼうと、私は返事をしない。
そんな日がしばらく続いたら、子供たちが皆で集まってきた。
「花子さん、ごめんなさい。もう意地悪しないから。遊ぼう?」ですって。
あんまりにもしおらしいから、思わず「いいよ。遊ぼう」って返事をしちゃった。そうしたらね……。
「キャーッ! まだいたぁぁぁぁー!!」
悲鳴をあげて逃げちゃった。
これって、『鬼ごっこ』ってやつよね?
わかったわ。相手してあげる。
皆と遊ぶために赤マントからナイフを借りたんだから、ちゃんと持って行かないとね。
私の走りは口裂け女仕込みよ。逃げ切れるかしら?




