三、ロッカー
大音量で鳴り響くギターと割れんばかりの歓声。
じりじりと焼きつけるライトに照らされ、喉を張り裂く勢いでシャウトする。
それが俺にとって至福の瞬間だった。
バンド活動を始めて早十年間。
無謀だと言われてきた東京ドームでのライブという目標がついに達成されようとしている。
チケットは全席完売。
俺たちのライブのためにこんなにたくさんの人たちが集まってくれたのだと思うと、今まで細々と活動を続けてきた甲斐があったと思えた。
柄にもなく神社にお参りに行った俺は、開演前から泣きそうになりながらメンバーと最高のライブにしようと誓い合う。
いつにも増して激しいパフォーマンスに、会場の熱気が呼応する。
もっと強く、もっと激しく。
終わりの見えない狂乱に幸福を感じていた。
――ああ……この時間が永遠に続けばいいのに!
“その願い、叶えてやろうぞ”
どこからともなく声が聞こえて来た。
声の主を求め辺りを見回すが、仲間は演奏を続け、観客たちも飛び跳ねたり叫んだりしている。
裏方にもそんなイタズラをしそうな人間はいない。
アンコールが終わり、幕が下りる。
やり切った達成感に張りつめていた緊張の糸が切れた。
その一瞬、視界が暗転する。
次に目を開くと、今まさに幕が上がろうとしているところだった。
「あれ? アンコールは終わったはずじゃ……」
疑問が頭をよぎるが、プロ意識がそれを表には出させない。
メンバーが演奏を始めたのはライブのオープニングに選んでいた曲だった。
その後先ほどのライブを丸ごとやり切り、幕が下りる。
その瞬間、やはり視界は暗転した。
そしてまた最初の曲が演奏される。
はたと気付いた。
俺は何を願ったろう? 叶えてやろうと言われた願いはなんだったろう? と……。
「いやぁ、でも突然だったよなぁ」
「ほんとほんと。幕が下りた瞬間ぶっ倒れて、そのままだもんなぁ」
「あいつは本物のプロだよ。ライブの最中、ちっとも具合悪そうな様子も見せなかったし」
「おかげで『伝説のライブ』なんて言われて注目度は爆上げだったけどな。オレたちだけでもできるってとこ見せて成功させようぜ。このワールドツアー!」




