十六、揚げ出し豆腐
幼稚園児の娘はこのところ粘土遊びとおままごとにハマっているらしい。
家でも私や夫を相手に粘土で作った手料理を振る舞ってくれた。
夫はその成長が嬉しいようで、満面の笑みで粘土料理を頬張るまねをして娘と一緒にキャッキャしている。
「ママが作るごはんより何百倍も美味しそうだぞ!」
ある日、夫がそう言って娘を褒めているのが耳に入った。
その瞬間に、私の中で何かが崩れる音がした。
私だって頑張っているのに。
家事に育児に近所付き合い。あちらこちらで気を遣いながら頑張って食事の準備もしているのに。
夫はそれをわかってくれていない。
それなら……、それなら――。
「今日は、はるちゃんも手伝ってくれたのよ」
私がそう言うと、夫はとても嬉しそうに娘の頭を撫でた。
娘も得意満面という様子だ。
まずは娘に小鉢を持っていってもらう。
夫は疑うこともなく小鉢の揚げ出し豆腐に箸を入れた。
「なんか固いな」
そう言いながらも、かぶりつく。
その口の端から白いものがぽろぽろとこぼれ落ちた。
「それね、はるちゃんが作った豆腐なのよ」
言いながら中身が半分ほどになった紙粘土の袋を見せる。
続けてサラダも出す。こちらは見るからに小麦粘土だったからか、手もつけずに夫は激昂した。
「なんでこんなものを食わせるんだ。俺は働いて帰ってきたっていうのに」
「あら、あなたがはるちゃんの作ったものの方が美味しそうだって言うから……」
私と夫のやり取りを聞いていた娘の表情がこわばる。
あなたは悪くないのよ、と娘の頭を撫でて、メインディッシュを差し出した。
これももちろん娘が粘土で作った特製のハンバーグだ。
「ほら、残さず食べてよね」




