十二、砂時計
彼氏が職場の同僚さんと男二人で旅行に行った。
そのお土産で買ってきてくれたのが、青い砂の砂時計だった。
一粒一粒が宝石のような輝きを見せる砂時計に見とれ、時間ができるたびにひっくり返してはサラサラと零れ落ちる砂を眺めていた。
不意におかしな音が聞こえた。
押し殺した泣き声のような、こもった音だった。
それはどうも砂時計から聞こえているようだ。
怖くなった私は、助けを求めて彼に連絡した。
「砂時計、変な音がするの!」
「鳴き砂で有名なとこだから。砂時計も鳴き砂使ってるんじゃない?」
素っ気ないようにも思える返答だった。
けれどおかげで少し冷静になれた自分がいる。
その出来事以降、薄気味悪くて砂時計を使う機会はめっきり減った。
ある晩、私は妙な息苦しさで目を覚ました。
前にも聞いた、すすり泣くような声もする。
細く目を開けると、そこに女がいた。
女は半透明で向こう側が透けて見える。
そんな彼女の細く冷たい手が私の首を絞めているのだ。
霊感なんてものは微塵もなく、心霊体験もしたことがなかった私は身動きが取れなくなってしまった。
私に馬乗りになって首に手を掛ける半透明な女は、何かぼそぼそと喋っている。
「なんで……あたしひと筋って言ったのに……」
どうやらそればかり繰り返しているようだ。
息苦しさと混乱から、私は意識を失った。
あれから一週間。
彼の浮気が発覚して色々とバタバタしたけれど、私はようやく事の顛末を知ることができた。
彼の浮気性が原因で元カノが自殺していた。
この前の会社の同僚と言ったという旅行は他の女との浮気の旅で、行き先も何もかもが嘘。
私がもらった砂時計は前の彼女の遺品だった。
あの幽霊は遺品が他の女の手に渡ったことを悲しんで現れていたらしい。
「もう、あいつのことなんて忘れましょ」
私は供養の意味も込め砂時計を叩き割った。




