十一、扉
甲高い音を立てながら防火扉が開く。
きっと、誰かがいたずらでもしたんだろう。
私は足早にその場を離れようとした。
「ちょっと」
私を呼び止める声。
振り向けば、先生がいた。
「どうして扉を閉めたり注意したりしないの」
先生は鋭く責め立てる。
周囲の生徒だって見て見ぬ振りをしていたのに、どうして私だけ……。
呆然とする私に、皆の笑い声が突き刺さった。
――そうか、皆は私を悪者にしたいんだ。私を晒し上げて、笑いたいんだ。
不信感と恐怖が渦を巻き、鉛のように胸の奥に沈殿した。
教室の扉が開くたび下卑な笑みが思い出される。誰も何も言わないが、思っていることは同じだろう。
扉が開く。笑われる。扉が開く。笑われる。扉が――。
「駄目ェッ! 開けないでッ!」
どうせ私を馬鹿にする気なんでしょ? 皆見てるんでしょ? 私のこと見て笑ってるんでしょ?
知ってるから、開けないで。
私が何をしたって言うの? どうしてそんなに私が憎いの?
「ちょっと……どうしたのよ? ご飯持ってきたから食べてちょうだい」
嫌よ。誰なの、アンタ。
母さんの振りして戸を開けさせようなんて、そんな手には乗らないんだから。絶対に開けさせない。
合鍵なんて使っちゃって、開けたら私、死んでやるんだから。
私の叫びは届かず、鍵が開く。
それを合図にカッターナイフを首に突き立てた。
女の甲高い声が耳を劈いた。




