十、仮面
私の素顔は誰も知らない。
素顔を見た者は例外なく死に至るからだ。
両親は事故、祖父母は病気で、親戚筋も様々な原因から鬼籍に入った。
私が引き取られた児童養護施設では火災が起きた。
不運な人生と憐れまれる反面、気味悪がられもした。
ある年の夏祭りで、私はお面をもらった。
流行のキャラクターのものだ。そのお面がいたく気に入り、私は四六時中お面を被って生活するようになった。
それからだ。周囲で人死にがなくなったのは――。
不幸の元凶が自分の顔にあるのではないかと気付いてしまった私は、常に仮面を身につけるようになった。
無機質なピエロの面に、くるぶし丈のマントを羽織る。
この格好をしていれば黙っている間は年齢も性別もわかりはしない。
異様な私のいでたちに、すれ違う人は恐れや嫌悪を露骨に表した。
初めは不快だった人々の反応が、今では快感に変わった。
そんな私の生業は殺し屋。ターゲットの前で仮面を外してやるだけでいいのだから、とても楽な仕事だ。
ターゲットのほとんどは自分が命を狙われていることにさえ気付かずに死んでいく。
皆は不幸だ。損をしている。
自室の壁に掛けられた鏡にそっと手を伸ばす。
正面の白磁の肌の美女も、同じく手を差し伸べた。
二人の指先は触れ合い、美女は顔をほころばせる。
彼女の素顔を愛でられるのは私だけだ。誰も知らない絶世の美女。まるでおとぎ話ではないか。
「行ってきます」
彼女の美しさを堪能した私は、呪われた姫君と鏡越しに口づけを交わし仮面を被った。




