八、最強の男
「さあ、登場していただきましょう! グレート山本さんです!」
フリーアナウンサーの司会者がハリのある声で俺の芸名を呼ぶ。
プシューと音がして白い煙が広がった。
その煙を掻き分けるように俺はのしのしと歩く。
身長百九十三センチ、筋骨隆々の恵まれた肉体。
それを際立たせる白いランニングシャツ。
雄叫びを上げながらマッスルポーズを決めれば今をときめく「グレート山本」の登場シーンは完成だ。
「本日グレート山本さんにはロードローラーと対決していただきます。自信のほどはいかがですか?」
「もちろん負けません」
俺が言い切ると、観客席から歓声が沸いた。
とはいえ、目の前に鎮座する巨大な重機に内心恐れを抱いていた。
こんなことをしなければいけないのは、俺が生半可な気持ちで名乗ってしまった「最強の男」の称号のせいだった。
元プロレスラーの俺がテレビに出始めたのは、瓦割り二十枚とかそういう企画で複数の力自慢が集まる番組がきっかけだった。
それを易々とこなしたことで、世間の俺に対する期待は高まり、俺一人の仕事が増えていった。
次第にトラックと綱引きや猛獣との対決など無茶な企画が組まれるようになり、今ではご覧の有様だ。
どんなに丈夫だとはいえ、俺だって人間。ロードローラーに轢かれればひとたまりもない。
そんなことはプロデューサーにもわかっている。
あらかじめ地面を掘っておいた所に俺を横たわらせ、体が柔らかい地面に沈み込むようにしてからロードローラーで轢く算段なのだという。
それなら危険性も低そうだと俺はオファーを受けた。
しかし、実物を前にして決心が鈍った。
そんなことばかり言っていられないので、俺は指定された位置に大の字で寝転んだ。
服の巻込み防止のため、アクリル製の透明で軽い板が体の上に乗せられる。
「それでは、参ります」
アナウンサーの声に合わせて、ロードローラーがジリジリと迫る。
「南無三……」
マイクに入らないよう小声で呟くと、俺は目を閉じた。
アクリル板がたわむのが指先の感覚でわかったが、上に敷かれたのは透明な板。
顔も丸見えだから焦った表情は見せられない。
違和感を覚えたのはその直後だった。
大きく広げた腕の中ほどから沈みにくくなったのだ。
その間もロードローラーは進み、腕の骨がミシミシと悲鳴をあげた。
このままではローラーがあと数センチで顔に乗り上げる。
腕を襲う激痛と恐怖に、俺は叫び声を上げて暴れ回った。
意識が戻ったのは病院のベッドの上だった。
俺は腕などの複数箇所を骨折しており、緊急手術を受けたらしい。
後日、プロデューサーから事故の原因は新人ADが掘り返す地面の深さを間違えたことだと聞かされた。
一メートル掘り返すようにと指示を受けたのに、何を思ったか十センチしか掘らなかったというのだ。
あの後撮影は休止。
番組そのものも一時放送を取りやめる事態となったという。
何度も申し訳ないと頭を下げるプロデューサーに、俺は笑って言った。
「油断してた俺も悪いんです。復帰する時は、ロードローラーとリベンジマッチさせてください」




