七、日記
夕日の差し込む部屋、私はソファーに腰掛けてママが残した日記を読んでいた。
淡いピンクの表紙のそのノートには、ママらしい丁寧な字で私と共に過ごした日々の様子が一日も欠かすことなく詳細に書き残されていた。
ママと過ごしたあの日々があまりにも懐かしく思われて、思わず笑みが浮かぶ。
――けれど、ママはもういないのだ。
時間が経つのも忘れて日記を読み進めるうちに、文章の中に「怖い」「死にたくない」という言葉が目立つようになってきた。
ママは、己の死を感じ取っていたのだろうか。
その時ママは何を想っただろう。考えただけで胸が痛んだ。
そして、ついに昨日の日付に辿り着いた。
慌てて書いたのか、珍しく字が乱れている。
“娘に殺される。助けて、誰か、助けて――”
やだなぁ、ママは。どうして私のことを悪者にするんだろう? 私は大好きなママと一緒に居たかっただけなのに。
……でも、ママはもう逃げないもんね?
「ママ、ごめん。さっきはやりすぎた」
私はママの足と柱を繋いでいた手錠を外し、痕の残ってしまった足首をさする。
「大人なんだから」と家を追い出されそうになってついカッとなっちゃったけど、包丁で刺すのはやりすぎだったかな。
でも、私を追い出してよそのおじさんと再婚しようなんてひどいよ。ママ。
私はこういうママが好き。
小言を言ったり叩いたりするママより、静かに隣にいてくれるママが。
この時間がずっと続けばいいんだけどね。
そうだ、今日の分の日記も書かなくちゃ。
“今日は幸せな日。私が生まれ変わった日。これからは愛する娘と二人、楽しく過ごしていこう”
……あ、でも、この日記を残しといたら私が警察に捕まっちゃうな。
お家と一緒に焼いちゃおうか。証拠隠滅ってやつ。
もちろん、私もママと一緒に居るからね。大丈夫。ママだけに苦しい思いなんかさせないんだから。
ずーっと一緒に居られるよね、ママ?




