六、金持ち
いつも通りに仕事を終えアパートへ帰ると、部屋の前に見覚えのないバッグが置かれていた。
母親が来ていたのだろうか。
それにしては鞄だけ置いて帰るなんておかしな話だが……。
落とし物だったら管理人さんか警察の所に届ければいい。
そう思ってその鞄を持って部屋へ入った。
異様に重たい鞄に興味を引かれ、中に持ち主がわかるものが入っているかもしれないのだから、と言い訳をして鞄を開けた。
そこにあったのは大量の札束だった。
どれも帯のついたピン札だ。
札束をひとつ、ふたつと数えていくと、百束――つまり、一億円が詰められていたことがわかった。
――どうしようか。
ちらりと邪な心が顔を出す。
こんな大金を持って警察に行こうものなら僕が疑われてしまうかもしれない。
管理人さんだって、こんな落とし物は処分に困るだろう。
第一、これは僕の部屋の前にあったんだ。僕がもらってもいいじゃないか。
調子に乗った僕は、次の日会社を辞めた。
放蕩生活の末、全ての金を使い果たした頃に奴らはやってきた。
けたたましいノック音と「金返せ」という言葉や暴言。
それが毎日、朝早くから日が沈むまで延々と浴びせられる。
その生活に僕の精神はどんどんと蝕まれていった。
アパートやマンションの部屋の前に大金を置くと、欲に眩んだ僕のような人間が使い込む。
ある日突然その金の持ち主だという者が取り立てに現れ、膨大な借金を抱え込まされる。
そんな新手の闇金の被害が続出しているというニュースを耳にしたのは、ある日のワイドショーの中だった。




