五、ピース
ザラザラザラザラ……――。
音と共に箱の中のパズルのピースが流れていく。
二千以上あるこのピースの、どれか一つでも欠ければそれで絵は完成しなくなってしまう。そこで世界は終わるのだ。
人間はどうだろう。
幾らでも替えのきく社会に生まれ、必要がなくなれば切り捨てられる。
一つ一つのピースの存在意義がない。
どこかのピースが欠ければそれを補うように別のピースが現れる。
些細な歪みすら生まれることを許さないのだ。
誰もがその事実を知っている。知ってなお、自らが切り捨てられる日をびくびくしながら待っている。
本当に無力だ。
だから、僕はピースを壊す。
いつ人間の世界が破綻するのかを観察しながら。
けれど、どんなに壊したって人間界という地獄絵図は壊れない。
これこそは、というピースを壊しても、すぐに替えのピースがその穴を埋めた。
埋めきれないほど多くの穴が開けばどうだ? 僕の挑発すら嘲笑うように失われたピースは穴埋めされた。
あまりに柔軟な対応力に、思わず舌を巻いてしまう。
しかし、それ故に。
「人間って、本当に可哀想」
ついさっき壊したばかりの男を見つめ、そう呟いた。
彼の代わりはすぐに現れて、ぽかりと空いた穴を埋めることだろう。
それに引き換え、今頃天界は僕の抜けた穴を埋めるために奔走しているはずだ。
人間を蔑むばかりではなく、たまには見習えばいいのに。
「ほら、人間なんてこんなにすごいんだからさ」
パズルの箱からもう一つピースを取り出して潰し、その穴が埋められていく様をぼんやりと眺めて呟いた。




