四、霧中
ママごめんなさい。許して。僕、これから良い子になるから!
ねえママ……ごめんなさい。ごめんなさい。許して……。待って、待ってよ!
ママ……ごめんなさい。ごめんなさい……。
こんな霧の夜は、若かりしあの日の過ちを思い出す。
あの頃は生活が苦しく、自分の生活だけでいっぱいいっぱいだった。自分一人が食べ繋ぐのもやっとだった。
だから、幼い頃に好きだった童話の真似をして子供を森の奥へ連れて行った。
そして、泣きじゃくる子を置き去りにして帰ってきてしまったのだ。
仕方のないことだと割り切って考えていた。
どうせ捨ててきたって子供は帰ってくるのだから、と童話を鵜呑みにしていた。
しかし、あの子がこの家へ戻ってくることはなかった。
初めのうちはお菓子の家でも見つけたのかしらと呑気なことを思ったりもしていた。
でも、山へ捨ててから一年が経ってもあの子は帰ってこなかった。
代わりに届いたのは、獣に食い荒らされた子供の遺体が見つかったという知らせだった。
やせ細ったその子供が身につけていたという衣服の一部を見せられて、私はその場にひざを折った。
よれて泥まみれになりながらも、あの子の身を守り続けた薄っぺらな布。
どれだけひもじかっただろう。どれだけ苦しかっただろう。
私は己の罪深さを痛感した。
その罪の意識からなのか、今夜もあの子の声が聞こえた。
そこで私は耐えきれず、霧に向かって呼びかけた。
「私の可愛い坊や。どこにいるの?」
“ママ、どうして僕のこと置いていっちゃったの? 僕、寂しかったんだよ?
でもやっと帰ってこられたんだ。ねえ、ママもお外に出ておいでよ。森で遊ぼう? 友達もできたんだ。ママにも紹介するよ!
ほら、早く早く!”
手招きする小さな影を見つけ、私は家を飛び出した。