二、赤鬼
僕が小学生の頃、同級生に「鬼」になるとめちゃくちゃに強い男の子がいた。
足も遅く、体格も良かった彼は鬼ごっこもかくれんぼも逃げたり隠れたりする時はさほど強くない。
しかし、ひとたび「鬼」という役割が当たると異常な強さを発揮するのだ。
そんな彼を僕たちは本名の谷山をもじって「鬼山」と呼んでいた。
鬼山は右目の下に泣きぼくろがある泣き虫な奴だった。
ある日、クラスのガキ大将が「鬼山は鬼のパンツを履いている」と言い出した。
鬼のパンツといえば、アニメなんかに出てくるような虎柄のあれだ。
何を根拠にそんなことを言い出したのか知らないが、必死になって否定する鬼山の様子が面白くてつい悪ノリが加速した。
一人が鬼山のズボンに手を掛けてずり降ろしたのだ。
女子は歓声のような悲鳴を上げながら横目でこちらを見ていた。
クラス全員の前に晒された鬼山の下着は、弁解の余地がない完璧な「鬼のパンツ」だった。
その日、僕らの夢には恐ろしい顔をした二匹の赤鬼が現れた。
大きな鬼とその陰に隠れながら涙目でこちらを睨む小さな鬼だ。
小さいと言っても僕よりも一回りは身体が大きそうで、小さい方の鬼には鬼山と同じ右目の下に泣きぼくろがあった。




