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完全版・怪奇短編集  作者: 牧田紗矢乃
動植物ノ怪

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37/105

十、蚊

 私を覚醒させたのは不愉快な音だった。

 耳障りなプゥ~ンという羽音は、眠っている人間にも危機感を覚えさせるらしい。


 蚊だ。

 蚊が部屋にいる。


 私は音の発生源を探して部屋の中を見回した。

 そこでふと、おかしな事に気が付く。

 今は三月。まだ蚊が発生するには早いはずだ。


 しかし羽音がすることは事実。

 部屋の明かりをつけ、蚊の居場所を探そうとした。

 ところが、その姿はどこにも見当たらない。


 諦めて明かりを消して布団へ潜り込むが、やはりまだ羽音がする。

 じっと闇を見つめていると、そこへぽーっと浮かびあがる白い虫の姿があった。


 私は狙いを定めてその虫を叩き潰そうとした。

 しかし私の手は空を切り、パチンと空気を叩き潰しただけだった。




 何度やっても蚊を叩くことができず、電気をつけると見失う。

 何度同じことを繰り返しただろう。

 叩けないなら追い出してしまえばいい。そう思い立って窓を開けた。


 春と呼ぶにはまだ早いこの時期。

 夜中の風は非常に冷たかった。


 部屋が冷めきる前に蚊を外に追い出さなければ。

 私は躍起になって蚊を窓の外の方へ追いやった。


 格闘すること五分。

 外へ消えていく蚊の姿を見届けて、ようやく眠れると安堵した。


 その直後だった。


 目の前の壁をすり抜けて蚊が家の中へ入り込んできたのだ。

 電気をつけると消えたり、触ろうとしても触れなかったりするところを見るに、どうやらこの蚊は幽霊らしい。

 虫の幽霊というのは珍妙だが叩こうにも叩けないのも頷ける。


 羽音は耳障りだが、幽霊なら刺しはしないだろう。

 観念した私はそのまま眠りについた。




 翌朝、枕元で季節外れの蚊が一匹死んでいるのを見つけた。

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