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完全版・怪奇短編集  作者: 牧田紗矢乃
動植物ノ怪

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34/105

七、月の花

 中国へ出張に行っていた夫が手土産に鉢植えを一つ持って帰ってきた。

 鉢には「月精花」と書いた札が付けられている。


 取引先の人がくれたもので、その人曰く「月光を浴び花開くが、その瞬間は見てはいけない」と言い伝えられている花らしい。

 どういうことかピンと来なかったが、とにかく月の光が当たるところがいいというのでリビングの窓際に置くことにした。




 夫が鉢植えを持ち帰ってから一週間程が経ったある日のことだった。

 夜中、下の階で話し声が聞こえて目が覚めた。

 泥棒にしては随分と大胆だ。


 私は心配になって夫を起こそうとしたが、叩いても揺すっても夫は起きてくれない。

 怯えているだけでは埒が明かないのでいつでも通報できるようにスマホを握りしめ、下の階にいる人物に気付かれないよう慎重に階段を降りることにした。


 声がするのはリビングだった。

 恐る恐る部屋を覗き込んでみると、そこには二人の人間がいた。

 一人は男、もう一人は女。二人とも素っ裸になって、窓際でよろしくやっている最中のようだ。


 人の家のリビングでなんてことを。

 怒鳴り込もうと息を吸い込んだ私は、思わぬものを目にしてしまう。


 一糸纏わぬ二人の背には羽が付いていた。

 虫の羽のように透明で、儚げな羽だった。

 幻想的な光景に、私は思わず見入ってしまった。


「……ママ?」


 突然背後から声をかけられた私は驚いて飛び上がりそうになる。

 そこにいたのは息子だった。

 私はとっさに子供の口を押さえ、リビングに視線を向けた。


 窓際にいた二人はこちらに気付いたようで血相変えて辺りを見回している。

 そして、二人はすっと消えてしまった。




 翌朝、月精花の鉢植えを見てみるとそこには二つの花開きかけた蕾がポトリと落ちていた。

 その蕾は、昨夜見た二人の妖精のような形をしていた。

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