三、ゴポゴポ
ゴポッ、ゴポゴポ……――。
水の中に空気を送り込んだような、あるいは地の底からガスが湧き上がってくる様子を連想させるような音で目が覚めた。
水道管の不調かと思ったが、そうではないらしい。
音は家の外、どこか遠くからこちらへ近付いて来ているようなのだ。
仕方なく眠い目をこすりながら布団から出た。
窓へと歩み寄ると、熱帯夜の風がねっとりと絡みつく。
緩やかな風に乗って流れ込んできた異様な臭気に思わずのけぞった。
窓の外には、何かドロドロとした大きなモノがいた。
「それ」は遅々とした速度で、這うように進んでいく。
巨大なヘドロの塊のような体に、宝玉のような双眸が輝きを添えていた。
二階の部屋にいる私と目が合いそうなほど視点が高い。
どうやら「それ」に敵意はないらしく、赤く輝く瞳は子供のように無邪気な光をたたえている。
むしろご機嫌で散歩をしているようにさえ見えた。
臭いに耐えかねて窓を閉めて目を凝らす。
「それ」の体の表面には泡が浮いては弾けていた。
さっきから聞こえていたゴポゴポという音は、こいつの体内から湧き出すガスの音だったようだ。鼻を突く臭気もこれが原因だろう。
結局「それ」が何なのかわからぬまま、その姿が見えなくなるまで私は窓の外を見続けた。
翌朝、何とも言えぬ異臭で目が覚めた。
昨日のことは夢じゃなかったのか、とうんざりしながら外を見る。
ところが、外の景色に特段変わった様子はなかった。
首を傾げつつ顔を洗うために洗面所へ向かう。
蛇口をひねると、ずるりと塊のようなものが溢れ出てきた。
その後も蛇口からボトボトと出てくる「それ」は、昨夜嗅いだ臭いととてもよく似ていた。
慌てて蛇口を閉め、浴槽にあった残り湯で洗面台に溜まったヘドロを洗い流す。
どの蛇口を使っても出てくるのはヘドロばかりだった。
水道局に連絡すると、「近隣から同様の苦情が相次いでおり調査中だ」との返答だった。




