二十六、神様
「お願いします、助けてください」
私の元を訪れる人々は口を揃えて懇願した。
私は何も答えず、ただじっと訪問者を見つめる。
愚かで安直な人間たちにはその行動が試されているように感じるらしい。
何度も何度も願いの文言を唱えられるうち、眠気が湧き上がってきた。
とはいえ、あくびも許されない不自由なこの身。
必死でかみ殺したあくびで、口の端がピクリと動いてしまった。
「おおっ!」
私の反応に喜びの声が上がる。
願いが聞き届けられた合図と勘違いしているのだ。
――ある方の身代わりに座らされているだけなのに、全くおめでたい奴らだ。
腹の底で毒づき、二度と動かぬようにと自らを戒める。
どうにかして愚民どもに教えてやることはできないだろうか。
「たぬき神社」の愛称で親しまれるこの神社の本当の神様は、この神殿の手前にある石段で物乞いをしている爺さんだ。
私はここでじっと座って人の願いを聴いているのに飽きたというあの方の代わりに座らされた僕の化け狸に過ぎない。
あの方に物を恵んでやれば、それ相応の幸福がもたらされるというのに――。




