二十五、稲荷
「あそこの神社、キツネが出るらしいよ」
友人の声に里奈は顔を上げた。
そこにあるのは通い慣れた通学路にある古びた鳥居。
生まれた時からこの町に住んでいる里奈は何年もこの道を通り、この先にある寂れた神社を見てきた。
毎年初詣にだって行っている。
けれど、そんな話は一度も聞いたことがなかった。
「……ま、キツネくらいはいそうだよね」
ちょっとした山の入口にある鳥居を眺めて漏らす。
この場所なら動物うんぬんという話も理解できなくはない。
そういえば、一緒に初詣に行った時にこの神社で買ったのも狐のキーホルダーだったっけ。
里奈の曖昧な返事が気に食わないのか、友人は語気を荒くした。
「ただのキツネじゃなくて! 九尾!」
「え……?」
一瞬呆気にとられたが、里奈はすぐに笑い出した。
「やだぁ、なにそれ。大昔の言い伝えかなんか?」
目のふちに溜まった涙を拭うと、悲しげな表情の友人が目に入る。
「里奈なら信じてくれると思ったんだけどな」
そう言うと、友人の姿は次第に透明になり、空気に溶けるように消えてしまった。
翌日、学校には友人の姿がなかった。
里奈は他のクラスメイトに彼女のことを問おうとしたが、名前が思い出せない。
歯痒さを覚えつつ話を切り出すタイミングを見計らっていると、不意に声を掛けられた。
「そうそう、里奈聞いた? 山のとこの神社解体するんだって」
もうボロボロだったからねー。
そう言って笑う同級生の声がどこか遠くに聞こえた。




