二十三、出会いがしら
祖父が事故で亡くなった。
双方に一時停止の表示がない交差点で、両者ともスピードを落とさず交差点に入り正面衝突したらしい。
元々交通事故の多い場所だというが、家から離れた住宅地であるその場所に祖父が向かった理由は定かではなかった。
祖父の葬式が終わると実感が沸かないまま遺品整理が始まった。
一人息子である父が中心となり、私もその手伝いをした。
祖父の机の上には、一台のノートパソコンがあった。
私が使わなくなり祖父に譲ったものだ。使い方は私が教えたからパスワードも知っている。
少しサボるつもりで、私はパソコンを起動した。
祖父のパソコンを見て面白かったのは、女性とチャットをしていたのがわかったことだ。
祖母が他界してもう五年になる。
一人暮らしをしていた祖父も寂しかったのだろう。
メールボックスを覗くと、「キヌコ」さんとのメールが見つかった。
意気投合した二人は近くに住んでいるらしいと知り、会う約束をしていたようだ。
待ち合わせの日時を見て私は息を飲んだ。
事故があった時間とほぼ一致する。
「お父さん、これ見て!」
待ち合わせ場所の住所を父に確認してもらうと、事故のあった場所のすぐそばだと判明した。
祖父は「キヌコ」さんに会いに行く途中で事故に遭ったのだ。
祖父が会おうとした人。
私たちは住所を頼りに「キヌコ」さんの自宅を探すことにした。
時間はかかったが、目的の家は見つかった。
インターホンを鳴らして出てきた人に待ち合わせ場所に向かう途中で事故に遭い祖父が亡くなったこと、事故が起きたのがこの近くであることを伝えると、相手方は脱力したようにへたりこんでしまった。
同じ日、「キヌコ」さんは来客があると言って出掛け、同じ場所で交通事故に遭い亡くなったのだという。
どうやら、本人たちが思っていたのとは違う形で二人は出会ってしまったようだ。




