二十一、座敷親父
実家から小包が届いた。
箱には母の字で仰々しく「天地無用」「取扱注意」と書き付けられている。
中身は割れ物だろうか。
慎重に箱を床に置き、ふと考える。
親にそんなものを送ってくれと頼んだ覚えはない。
そもそも、実家はここから車で二十分ほどの近所だから、宅配便を使う必要もないだろう。
――連絡さえくれればいつでも帰るのに。
少し呆れながら箱に手をかけて、はたと中身は食べ物なのではないかと思い至った。
というのも、うちの母親は車を持っておらず米や野菜などの重いものを運ぶのに宅配業者を利用することがたびたびあったのだ。
それならば尚のこと急がなくてはいけない。
ガムテープの端を爪でかりかりとやってみたが、どうも剥がれる様子がない。
ならば、とカッターナイフを持ち出して段ボールの切れ目に沿って刃を入れたのだが、何故かそれも上手くいかない。
箱の腹にカッターを突き立てようとしたが、阻まれた末に刃が折れてしまった。
首をかしげつつ箱を持ち上げてみると、ずっしりと重かった。
軽く揺さぶって中の物が何かを探ろうとすると、ベチン、ベチンと柔らかいものが叩きつけられるような音がした。
どうやら割れ物や野菜ではなさそうだ。
そして、少し間を置いてうめき声のようなものが聞こえた。
獣というよりもしがない疲れたサラリーマンのような、悲壮感を孕んだ声だった。
ということは、中に入っているのは生き物ということだろうか。
噂に聞く、「小さいおっさん」というやつかもしれない。
なんて考えたりもしたが、開かない箱にずっと構っているほど暇ではない。
箱を乱暴に床に投げ捨て、夕飯の用意に取り掛かることにした。
箱の中から、「ぐえっ」と蛙が潰れるような声が聞こえたが、開かないものはどうしようもない。
その後もガサゴソと音を立てる箱を気味悪く思いながら生活していると、母親からメールが届いていたことに気付いた。
“座敷童が獲れました。送ったので大事にしてね”
意味不明な文章だ。
……が、これを真に受けるとすれば箱の中身は福の神か。
というか、座敷童って家から離れると家計が傾くとかそういうモノではなかっただろうか。
バチが当たりそうなことしかしていないが、明日にでも実家に返しに行くとしよう。




