二十、自転車
僕のご主人さまは乱暴だ。
急カーブや急ブレーキは当たり前。
未舗装の砂利道や、雨上がりのぬかるみだってなんのその。
耐え切れなくなったタイヤが弾けた時も、不規則に弾むタイヤのままでスピードを出し続けた。
やっと修理に出してもらった時には、自転車屋のおじさんが哀れむくらいに酷いありさまだった。
それでも彼が僕を使い続けるのは、どうしてなんだろう?
僕の修理にかけたお金を全部合わせれば新品だって買えたのに。
何にしろ、使ってもらえるのは嬉しいことなんだけどね。
でも、人と同じように物にだって寿命がある。
最近は物の寿命が短くなってきていると聞くし……。
無理が祟ったのか、最近は身体がキイキイと悲鳴を上げている。
僕が寿命を迎えるものそう遠くないことかもしれないな。
冬の休憩期間が終わって、春がやってきた。
これからまた彼と一緒に色んな所へ出掛けられる。
ワクワクしている僕に向かい、男の子のお母さんがこう言い放った。
「ずいぶんボロボロね。買い替えましょうか」
嫌だよ。
まだまだ一緒にいたいのに。
春だから?
中学生になるから?
そんな理由で僕は捨てられちゃうの?
プツリ。
「最後」と言われたお出掛けの途中、僕の中で何かが切れる音がした。
全力で坂道を駆け下りる僕。
気持ち良さそうに口笛を吹きながら、尚もペダルをこぐ彼。
二人の息はぴったりだ。
坂道を降りればそこは大通り。
この町一番の交通量を誇る主要道路だ。
信号は赤だからいつものように彼はブレーキを握った。
でも、残念ながら僕のブレーキはさっきブチ切れちゃったんだ。
ごめんね。
でも、僕を捨てるだなんて言うからいけないんだよ。
大型トラックが近付いてきてるね。
「えっ? うわあああぁぁぁぁぁぁ……」
大丈夫。逝く時は僕も一緒だから。
今までアリガトウ。
――ぐしゃり。




