十九、雨雲の声
しとしとと雨が降り続く、梅雨のある日のことだ。
雨続きで遊びに出られなかったユウタは、自分の家の庭で遊ぶことにした。
「あーした天気なーあれ」
元気な声とともにユウタの水色のサンダルが蹴り上げられる。
空高く舞い上がったサンダルは、低い位置を漂っていた雲に吸い込まれるように消えた。
「あっ……」
ユウタは空を見上げて身体を硬直させた。
その時、どこからともなく不思議な声が聞こえてきた。
「まいどありぃ~」
その直後、突風が吹いた。
ユウタは思わず身をすくめ風をやりすごす。
次に顔を上げた時には、雲は風に流されて消えていた。
蹴飛ばしたはずのサンダルは見当たらない。
庭の草むらに落ちたか、木に引っかかったのか。
日が暮れるまで探し続けたが、どうしても見つけることはできなかった。
片方だけサンダルを履き、泥まみれの服で泣きながら家に入ったユウタは母親にこっぴどく叱られた。
翌日、目を覚ましたユウタは窓の外を見て驚いた。
数日間重く垂れ込めていた雲が、ひとつ残らず消えている。
代わりに綺麗な虹がアーチを描いていた。
その日は一日、この時期としては稀なほど清々しい晴天となった。




