十五、回る人
所用で田舎の方へ出張に行った時のことだった。
道路脇に六、七人ほどのスーツ姿の男女が輪を作って立っているのが目に入った。
それぞれが手に白い布を持っている。その布は、大きさから推察するにシーツか何かのようだ。
集団が何をするつもりなのかが気にかかった私は、時間に少しの余裕があったのをいいことに近くのコンビニへ車を止めた。
集団にまだ動きはない。
顔を突き合わせて、何かを話し合っているようだった。
のどが渇いていた私はこれ幸いとばかりに急いでコンビニ内に駆け込むと、缶コーヒーを一本だけ購入してすぐに車内へ引き返す。
時間の余裕的にも、このコーヒーを飲み終えるまでが限度だろう。
早く、と急かしたくなるのを抑えて、バックミラーに映るその集団を凝視し続けた。
ちびちびと飲んでいたコーヒーが半分ほどなくなったところで、ようやく集団に動きが見られた。
彼らは円を描いたまま反時計回りに回り始める。
しっかりと開かれた両手に握られるシーツが、風にはためいて膨らんだ。
口がもごもごと動いていることから、彼らが何か呪文のようなものを唱えているらしいと知れる。
生憎、私は読唇術というものを身につけていないので、彼らが何を言っているのかはわからない。
窓を開けてみても風の音がビュービューとうるさくて声を聞き取ることはできなかった。
どれくらいそうして回っていただろうか。
ある瞬間、ミラー越しに集団の中の一人と目が合った。
それはほんの一秒にも満たない時間だったが、私も相手も目が合ったことを自覚していた。
次の瞬間。
他の者たちも私のことを見つめているのに気付く。
偶然ではない。全員の視線がしっかりと私を貫いていた。
気味の悪さと罰の悪さで私はすぐさま車を発進させた。
彼らは追ってくることもなく事なきを得たが、あのまま集団を見つめ続けていたらどうなっていたのだろう。




