十四、台所
残酷な表現があります。苦手な方はご注意ください。
トントントントントントントン……。
包丁がまな板をリズムよく叩いている。
お母さんが朝食の準備をしているようだ。
にゃん、とひと声鳴いて部屋を出て行った愛猫の後に続いて寒さに身を縮めながら階段を下り、私は台所へ向かった。
「お母さん、てつだ……」
手伝おうか? 言いながらひょいと母の手元を覗き込んで、言葉を失う。
まな板は赤く染まり、生臭い血の臭いがそこに漂っていた。
まな板から零れ落ちたものを愛猫がくわえていく。
トントントントントントントン……。
母は自分が置かれている状況がわかっていないのか、黙々とそれをきざみ続ける。
私は吐き気を押さえ切れず、シンクに胃の中のものをぶちまけた。
「お母さん、手……!」
「あら、いけない」
母はミンチ状になった自分の左手を見て、さして驚いた様子も見せずに声をあげた。
それでも、包丁を動かす右手は止まらない。
トントントントントントントン……。
飛び散る肉片を浴びながら、私は悲鳴をあげて床に倒れこんだ。
気がつくと、私はベッドの中にいた。
――……はぁ。悪い夢だったんだ。
安堵に胸を撫で下ろすと、いつもの心地よいリズムが聞こえてきた。
にゃん、とひと声鳴いて愛猫が部屋を出て行く。
トントントントントントントン……。
――さ、早く着替えてお母さんの手伝いをしなくちゃ。




