二、コレクション
「こちらは、今からおよそ三十年前に子供たちを熱狂させたトレーディングカードです。特に、ホログラム加工がされたレアカードは子供たちの憧れの的でした。ところが、ある日突然、販売元の会社が倒産してしまったのです。
最後に発売されたこの拡張パックのシークレットカードは世の中に百枚ほどしか出回っておらず、名実ともに幻のカードとなっています。そんな幻のカードがこちらです!」
リポーターが流暢に語りながらガラスケースに収められたカードに嬌声を上げる。
そこに映し出された映像に目を疑った。
それは僕が子供の頃宝物として大切にしていたカードだったのだ。
「取引価格は二百万円を超えることもありますね」
先月会社をやめたせいで家賃や車のローンの請求に頭を悩ませていた僕は、店主らしき人物の言葉に思わず目が眩んだ。
あのカードはたしかまだ実家にあったはずだ。
週末にでも実家へ探しに帰ろう。
「神様って本当にいるんだなぁ」
僕が込み上げてくる笑いをこらえていると、その日の晩に一つ上の兄が家へやってきた。
「あれは俺のカードだ」
開口一番兄はそう言った。
どうやらどこかでカードの話を聞きつけてきたらしい。
たしかに、あれは兄が引き当てたカードだ。
しかし、カードが店頭から消えて人気がなくなると、他のカードとまとめてもういらないと僕に押し付けてきたのだ。
それを保管していたのは僕なのだから、幻のカードは僕のものだと言い返すと、兄はあからさまに不服顔をした。
「俺のだ」
「いいや、僕がもらったんだから僕のものだ」
言い合いはもみ合いに発展し、気が付くと兄は床に倒れていた。
こんな形でお土産にもらったガラス製の灰皿を使うことになるなんて。
呆然としながら、気が付くと実家に電話を掛けていた。
無意識のうちに母さんの声を聴いて落ち着こうとしていたのかもしれない。
「あぁ、母さん? 昔集めてたカードなんだけどさ……」
「そんなもの、とっくの前に捨てたわよ」
何年も置きっぱなしだからいらないと思って。
母さんの言葉に、僕の意識はますます遠ざかった。




